K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

津村信夫「「戸隠の繪本」(1940年,ぐろりあ・そさえて)なぜか曇った七夕に夜歩きをして想いだした


戸かくし姫   津村信夫

山は鋸の歯の形
冬になれば 人は往かず
峰の風に 屋根と木が鳴る
こうこうと鳴ると云ふ
「そんなに こうこうつて鳴りますか」
私の問ひに
娘は皓(しろ)い歯を見せた
遠くの薄は夢のやう
「美しい時ばかりはございません」

初冬の山は 不開(あけず)の間
峰吹く風をききながら
不開の間では
坊の娘がお茶をたててゐる
二十を越すと早いものと
娘は年齢を云はなかった

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(2009年7月7日 記)

今日は水道橋(午前)から新横浜(午後)へと,たまにはスーツを着て,汗をかき出張.夕刻,横浜の気温が24℃だったので,北鎌倉から深沢へ歩いて帰るこ とにした.北鎌倉から葛原が岡への分岐までの上り坂の最後は民家もなく,暗がりのなかを歩く.気温が下がっているためか,湿気が霧となり月もかすんでい た.天の川どころではない.風がこうこうなって木々がゆれる.「こうこう」って書いて,どこかにあったな,と思い出したのが,津村信夫「戸隠の繪本」の 「戸かくし姫」.これは宿坊から仰ぎ見る戸隠連山の冬の光景なのだが,梅雨の鎌倉の一人歩きでも寂しい感じがした.葛原が岡への分岐を越え,坂を下りはじ めると,風が吹き霧が晴れ,藤沢の夜景がよくみえ始める.民家が並びだし,日常のなかに戻る感覚で散歩の小さな高揚感は消える.

戸隠といえば最近はスキー宿に泊まるが,その昔は宿坊に泊まった.戸隠から飯綱にかけては,天狗だの鬼だの忍者の土地なのだが,天狗の由来は西域(西アジ ア)からのペルシャ人の風貌という説もある.泊まった宿坊の主が,すごくバタくさい西洋人のような風貌で,天狗の末裔(?)をみたような気がした.