Thelonious Monk: Solo on Vogue (1954, Vogue)
A1. 'Round About Midnight
A2. Eronel
A3.Reflections
A4.We see
B1. Well You Needn't
B2.Hackensack
B3.Evidence
B4. Smoke Gets In Your Eyes
B5.Off Minor
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その昔,「夕方、私は途方に暮れた」と書き始めたのは津村信夫であったが,ボクも途方に暮れかけようとしている.最近紹介されたクラシックの音が随分ツボで,頭の中の秩序がガラガラと再構築されているから.要は,ボクがジャズに求めている要素,秩序からの逸脱感,強烈な揺らぎ(SwingというよりFluctuation),spiceというより毒,をカヴァーするクラッシックに痺れてしまったのだ.ある種のFree,特にヨーロッパの音に対して,とても辛い耳になったような気がしている.だから,アタマのなかのアドレス帳の書き直しに怯えているのだ.
そんな訳で,ここ数日,痺れているクラシックと並行して,マジメにジャズも聴き直している.というより点検かなあ.惰性で聴いていた部分(positiveな意味での惰性なのだけど)が少しずつ見直されているような感覚.やっぱりジャズはいいよな,と思わせる盤もしっかり再認識して,ほっとした.先日のThe Duke plays Ellingtonもそうだし,この1枚,Thelonious MonkのSolo on Vogueもそうだ.
VogueってあのVogue.だからパリ録音.冒頭の'Round About Midnightを聴き始めると,訥々とFluctuateしながら綴られていく音がいきなり弾けてしまって,何処かへと散っていくような軌跡だけを残していく.
寡黙な音と音の間でも静かにFluctuateするモノクロームの陽炎.弾けたトーンは酔眼を照らす街の光と絶望的でない寂寥感.そのあとに続くA面の3曲の優しさはなんだろう.ただの独り言を繰り返すような音の羅列なのだけど,恥ずかしいコトを繰り返して生きていることに,とても肯定的な何かを貰うことができるのだ.
どの曲も収録曲はオリジナルが大半で,どんなモンクカヴァー集よりも,本人の演奏のほうが原曲から巧く逸脱しているような感覚を与える不思議な音なのだ,Monkの曲そのもののが持つ味は,シニカルだけど決して否定的でない暖かさがあり,Solo on Vogueのなかで存分に楽しめる.
ボクはジャズのなかで,ピアノソロを楽しむことは案外難しい.Keith Jarrettのソロはまたジャンルが違うしね.だけど,Monkについてはこのソロを聴けば実は十分じゃないかなあ,といつも思っている.ジャズのタイム感覚が溢れているし,他の奏者に邪魔されたくない感じもある.
本当に古い録音なのだけど,ピアノのトーンは清澄かつHipで,McIntoshの劣化アンプ(雑音が多い,泣き)でLPレコードをかけると,本当に綺麗に鳴っているので,今宵も静かに慰められている.
[2019-7-23追記]
後日、念願叶って10インチのオリジナルを入手したが、音の綺麗なことには驚いた。徳間の12インチとの違いすぎる。