K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金沢・梅雨の合間に月をみる


独りで暮らしていると,考えが閉路にはいり,いつまでも同じ路を歩いているような錯覚に陥ることがある.歯止めがかかりにくいのだ.昼間の仕事も過半の時間は独りだから,そんな感覚がある.偏執,というコトバは使いたくないのだけど.月のコトが気になったら月.阿呆みたいに空を見上げることが多い夜.梅雨の曇天だって見上げたりするのだから,やっぱり可笑しい.

昨日の夕刻は雨.月のことはすっかり忘れていた.夜半過ぎ,片町から帰る途中,ビルの合間からまんまるの月が顔を覗いた.とても明るい.暫くは何かヘンなモノをみたような居心地の悪い感じだった.でもやっぱり十六夜の月だった.犀川大橋を過ぎることには,いつのまにか帳の向こうに消えていた.

まってみても出る気配がなく,ぶらぶらと犀川沿いを歩きながら見上げるも上天の雲が照らされているだけで,なかなか姿を現さない.しかし,ソコには居る様子がありありと分かるのだけど,求めるモノには与えられないのだ.いつものように,長良坂まで歩いても犀川河畔では姿を出すことがなかった.ひかりの甘い香だけをみせられたような,苦みが残った.

犀川沿いはとても湿気が強く,あまり気持ちのよいものではなかったが,時折,冷気を孕んだ風をぶつけられたり,長良坂の方角からも何故か風が吹いてきたり,風と歩く感じは悪くなかった.長良坂を越えると,なにか不思議な境界あるいは結界を越えるような感覚がある.ぽんと軌道のなくなった広い路に飛び出す.

もうすっかり月のことはあきらめて歩く寺町台地のうえで,暫く流れる雲の間からみえてきた月.ほんの二十秒ぐらいの幻灯とぶつかった.十六夜の終わりには,ただただ蒸し暑い梅雨の合間に月の静かな余韻が残った.