K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

林俊介「茫々酒中日誌 」(2003) 書棚で眠っていたのを取り出した


この地,金澤には引っ越して来た2009年秋以前にも随分来ている。あまり知られていないことだが、四十万にある電子部品工場は携帯電話のある部品で世界一のシェアを誇っており、前職で何かと付き合いがあったのだ。とくに春の櫻の時期とか、急に冷え込みはじめたときとか。いい時節に訪問した。

あわせて、ボクにいろいろ世話を焼いてくださった前職の先輩が金澤に移られたので、工場訪問とは別に時候の挨拶にもしばしば訪れた。

そんなこんな用事を見繕って、要は好きな金澤に構呑みに来ていたのだ。ボクの経費で呑んだり、呑ませて貰ったりの社用の世界。だから一次会の料理屋や料亭、二次会のお姉さんが座るお高い店にも随分行った。今は昔のこと。

そんな時代の習慣が血となり肉となり随分肥えていた。だけど仕事が変わって生活が変わったら、カラダも振り出しに戻って20代半ばの目方まで戻って不思議なものだ。全てチャラ。

そんな所用というか社用モドキで金澤に来ることがとても楽しみだったのだけど、早く到着したときの楽しみは金澤駅前にあった本屋「リブロ」で時間を潰すこと。趣味の良い取りそろえが素敵な店で、金澤に移り住むときに住まいを駅前周辺にしようかと真剣に悩んだのだ。勿論、そんな動機で住まいを選ばなくて正解。引越してくる1週間前に「リブロ」は閉店。昨8月末にからっぽのフロアの前で呆然としていた。爾来、新刊本の本屋難民。本屋に乗用車で行く感覚にはならない。街中にあのクラスの本屋がないのは、金澤の魅力を随分損ねていると思っている。

金澤の本屋で案外良く読んでいたのは地方出版の本。どの地方よりも彩り鮮やかに金澤という土地を語る本が多いのだ。社長夫人,昔で云う女将が語る森八の倒産劇などは、なかなか面白かった(不謹慎だけど)。2003年だからもう随分前なのだけど、金澤の「ええところ」のガイドブックとして買ったのが金澤倶楽部が出版した林俊介「茫々酒中日誌 」。林俊介さんは金澤倶楽部の創業者(のようだ)。

要は呑み歩く日々,をとてもシニカルな筆致で書いた「酒中日誌 」で、登場したお店の場所と電話番号が載っているのだ。こんな感じ:

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p.99 某月某日

「照葉*61」の吉川弥生子さんの結婚披露パーティが東山の「金沢とどろき停*62」でおこなわれる。.......

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そして巻末に*61と*62のお店情報。とても美味しそうな情報ではないか。

ボク自身が活用したのかというと、社用オヤジの回遊ルートからは外れているので、読んだだけ。金澤の素敵なお店への憧れだけお印のようにボクの気持ちに残して、いつしか書棚の奥で眠っていた。

昨夜帰宅して、出張で持っていく本を選んでいたら見つけたのだ。懐かしい。早く寝るつもりがつい読んでしまった。気がつくと、金澤倶楽部関係の方を知っていたり、巻末に載っている店の幾つか(照葉、ラ・ヴィータ、小松弥助)には行った。だから随分身近に感じる本になっていた。自宅近辺の知らない店(ない店?)も載っていて気になる(三月うさぎ、ダエヴァンス,かぶらや)。

この本,実は酒呑みガイドブックではなくて著者の喪失感,傷心が通奏低音となっている悲痛な日誌。若い、美しい夫人を医療事故(?)で亡くされている。だから、どの酒もほろ苦さが伝わってきて、手放しで美味しそうには読めないのだけど。

金澤に来たいという気持ちの何パーセントかは、この本とかあの本とか、金澤についての語りに惹き寄せられたトコロもあるのだろうなあ、と思う。