K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

JAZZ会#12 中山康樹の「最後のジャズ入門」を聴け!


今回で満1年となるJAZZ会。本業が映像プロデューサ(って、どんな仕事?)のKチャンが彼自身のためにプロデュースしている月例会。ジャズを聴きたい彼が、気の赴くままにテーマ設定を行い、ボクがテーマに沿って選盤している。遊びの会なのだけど、マジメに遊ぶコトでは、ボクもKチャンも気持ちが良く合っていて、早くも1年経った。

さて、その成果なのだけど、オレゴンの音を聴いて、とっさにECM系だね?、と云えるようになったKチャンをみて、ニタニタしているボク。もっとも、ブルーノートの音だけどアルフレッド・ライオンのプロデュースの雰囲気と違いますね、なんて話題に行きそうもないトコロに、ボクの偏向ジャズ嗜好に付き合わせてしまったコトが見事にあらわれているのだけど。反省。そのうちに、ブルーノート特集とか、ハードバップ特集とか、そんなのをやんなきゃね。と思いながら、アルゼンチンの女性ヴォーカルを聴かせようかと考えている、正しくないジャズ・ファンなのだ。

さてJAZZ会プロデューサKチャンの今回の指令は「1年のジャズ入門を総括したい。中山本を読んだので、その内容を取り上げて欲しい」。中山本とは、
中山康樹:挫折し続ける初心者のための最後のジャズ入門(幻冬舎新書,2007年)720円+税。
30年間漫然と聴いていたキライはあるのだけど、さすがに初心者でないと思いたいボクは読んでいない本。お正月前に注文して、先日入手した。僅か1時間強で読めてしまって、詐欺にあった気分、とは云いたくないけどね。

中山康樹さん、今はなきスイング・ジャーナルのモト編集長。ボクもマイルス本とかビルエヴァンス本ではお世話になっています。ボクがジャズを聴きはじめた30年前には、スイング・ジャーナルの編集者であったに違いないので、彼の言説のある部分がボクのジャズ頭の血肉になっているコトは間違いない。特に巻末に取り上げられた初心者用ジャズ盤の選盤はさすがであり、仰せのとおりで御座います、状態のボク。

だけど、本書の8割を占める、初心者が聴くときの「姿勢」的なハナシは情報がない割には抹香臭い。アノ世代のアジテーション、金釘書体のタテカンを見るような気持ち悪さ、に溢れている。「ジャズ道入門」なんだな。資本論の勉強会じゃないのだから勘弁して欲しいなあ、が偽ざる感想。オトを聴いて、感じる・感じない、が論議の中心であることには間違いないのだけど。出来が悪い「新入社員の教育係」(具体的なコトは話せない割に、姿勢については一家言あり)みたいなんだなあ。(基本的に中山サンの本には、とても好感を持っているのだけど)

さて、これが中山本の選盤。カテゴリ毎の切り口はさすがだなあ:
�@マイルス・デイヴィス
『イン・ア・サイレント・ウェイ』
『ネフェルティティ』
『ビッチェズ・ブリュー』
『オン・ザ・コーナー』
『TUTU』
『ドゥー・バップ』

�Aビル・エヴァンス
『ホワッツ・ニュー』
『エクスプロレイションズ』
『ハウ・マイ・ハート・シングス』
『トリオ65』
『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』
『パリ・コンサート・エディション1&2』

�Bブルーノート
『アス・スリー』ホレス・バーラン
チュニジアの夜』アートブレイキー&ジャズメッセンジャー
『ブルーアワー』スタンリー・タレンタイン・ウィズ・スリー・サウンズ
『ハプニングス』ボビー・ハッチャーソン
『スピーク・ライク・ア・チャイルド』ハービー・ハンコック

�CECM
『オープン トゥ ラブ』ポール・ブレイ
『トランス』スティーヴ・キューン
『残氓』キース・ジャレット
『デュエット』チックコリア&ゲイリーバートン
『グレート・プリテンダー』レスター・ボウイ

�D現代のJAZZ
『マイ・ピープル』ジョー・ザヴィヌル
『フィールズ・ライク・ホーム』ノラ・ジョーンズ
『ミンガス』ジョニ・ミッチェル
『グリング・グロウ』ビョーク
『マネー・ジャングル』デューク・エリントン
『ミステリオーソ』セロニアスモンク
ブランデンブルグ・ゲイト・リヴィジテッド』デイヴ・ブルーベック
『ラジオのように』ブリジッド・フォンテーヌ
『リナ&ミシェル』リナ・ホーン&ミシェル・ルグラン
『イン・パリ』スタンゲッツ
『ザ・メイン・イヴェント』フランク・シナトラ
『ライブ・アット・ブルース・アレイ』ウィントン・マルサリス

さて、上記インプットをもとに、中山選盤を交えて、上記カテゴリを尊重しながらの選盤を行うコトにした。それから、選盤にあたっての考え方も納得のいくものなので、視点を付け足すような感じでボクの選盤を行った。


A.マイルス・デイヴィスを聴け!
中山視点:ジャズという範疇でとらえるとマイルスの捉え方を誤る。音楽そのものなのだ。
はい、そのとおりですね。音楽という範疇でとらえたとき、多くの素晴らしい音楽とならぶスケールの音楽家であると思う。ただ、ジャズという狭い範囲で捉えたときに、よりその大きさを感じることも否めない。ジャズという音楽の境界を越境したことに意義を見出すならばね。そんな相対化した見方もできるように感じるこの頃。

(1) Miles Davis: In a Silent Way (1969, Columbia):中山本推奨盤、Kちゃん聴きたい指定盤
Miles Davis (tp) Wayne Shorter (ss) Joe Zawinul (org) Chick Corea, Herbie Hancock (el-p) John McLaughlin (el-g) Dave Holland (b) Tony Williams (d) Columbia Studio B, NYC, February 18, 1969
オーストラリア出身のJoe Zawinulを迎えて作られた本アルバムのCoolさは只事ではない。ジャズ=アドリブの魅力、といった約束事すら反故にする迫力がある。Joe Zawinulは、その後Weather Reportで70年代のジャズをリード。
(2)Miles Davis: Live Around The World (1988)よりIn A Silent Way/Intruder
Miles Davis (tp) Kenny Garrett (as) Adam Holzman, Joey DeFrancesco (key) Joe "Foley" McCreary (lead b) Benny Rietveld (el-b) Ricky Wellman (d) Marilyn Mazur (per) "Expo. Park", Osaka, Japan, August 7, 1988
同じ曲を20年後に再演。マイルスバンドのリズムの変化が面白い。

マイルスが普遍的な音楽を目指していたという中山本主張に敬意を払いつつ、その精華の一つはポップ曲のカヴァーじゃないかなあ、と思うボクなのだ。
(3)Miles Davis: Live Around The World (1991)よりTime after time
Miles Davis (tp) Kenny Garrett (as) Adam Holzman, Kei Akagi (key) Munyungo Jackson (per)  Joe "Foley" McCreary (lead b) Benny Rietveld (el-b) Ricky Wellman (d)
(2)と同じアルバムなのだけど、シンディ・ローパーの楽曲を取り上げている。これは死の直前のフランスでのライヴの演奏じゃなかったかな?
(4)Edith Piafs: Autumn Leaves
ピアフの名曲「枯葉」。アメリカでのジャズ演奏家は冷遇されていたようだ。Respectされていない。一方、欧州、特にフランスでのジャズ熱は高かったようで、多くのジャズ演奏者がフランスに向かった。マイルスもフランスで浮名を流したようだし。だから枯葉も彼らにとって親しみの沸く
(5)Cannonball Adderley:Somethin' Else(1957)より Autumn Leaves
Miles Davis(tp), Julian Cannonball Adderley(as), Hank Jones(p), Sam Jones(bass), Art Blakey (ds)
Cannonball Adderley「名義」なのだけど、実質マイルスのアルバム。麻薬中毒で苦境の時代に付き合ってくれたBlue Noteへの恩返しセッションだそうで。コロンビアだかプレステージとの契約があるので,サイドマンの名義。
(6)Miles Davis:Complete Live At Plugged Nickel 1965 [Disc 6]より Autumn Leaves
Miles Davis(tp), Herbie Hancock(p), Wanye Shorter(ts), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)
同じ枯葉でもリズムセクションが変わるとこのとおり!リズムのソリッドな切れが気持ち良い。
(7)Miles Davis: In Person Friday Night At The Blackhawk, Complete [Disc 4](1961)よりSomeday My Prince Will Come
Miles Davis (tp); Hank Mobley (ts); Wynton Kelly (p); Paul Chambers (b); Jimmy Cobb (ds).
 Recorded live at the Blackhawk, San Francisco, California on April 21 & 22, 1961.
最後は時代を少し戻してディズニーナンバー。黒人がすなるリリカルなピアノ、って感じのWynton Kelly も気持ちいいし、マイルスのミュートプレイもなかなか。


B.ビル・エヴァンスを聴け!
(8)Bill Evans: What's New'(1969) 中山本推奨盤よりStraight No Chaser, What's New, Autumn Leaves, So What
Bill Evans(p), Jeremy Steig (fl), Eddie Gomez (b), Eddie Gomez(B), Marty Morrell(ds)
なかなかうまい推奨盤。確かにビルエヴァンスのピアニズムとフルートが醸しだす軽妙な音色がとても聴きやすい一枚。うーん。黙って聴くしかないね。マイルスとの枯葉聴き比べ、マイルスの楽曲So Whatを楽しんでくださいませ。

確かにピアノトリオだけがビルエヴァンスではない。その考えに乗っかると想い出されるのは
(9)Bill Evans, Stan Getz: But Beautiful(1974)
Bill Evans (piano); Stan Getz (tenor saxophone); Eddie Milestone, Gomez (bass); Marty Morell (drums). Recorded live at The Singer Concertzaal, Laren, Holland on August 9, 1974 and Middelheim, Antwerp, Belgium on August 16, 1974.
白いジャズ同士の相性はとても良い。
(10)Bill Evans : Affinity(1979)
Bill Evans (acoustic & electric keyboards); Larry Schneider (soprano & tenor saxophones, alto flute); Toots Thielemans (harmonica); Marc Johnson (acoustic bass); Eliot Zigmund (drums)
シールマンスのハーモニカを楽しんでください。生前最期の公式盤。ボクは京都三条の十字屋でリアルタイムに買った今は昔。格別の愛惜がある。
(11)Bill Evans : Bill Evans Album(1971)
Bill Evans (piano) Eddie Gomez (bass) Marty Morrell (drums)
ビル・エヴァンスといえばアコースティックピアノの印象が強いのだけど、彼が弾くFender Rhodesにも強く惹かれるのだ。


C.番外:マイルスとビル・エヴァンスを聴け!
(12)Mies Davis: At Plaza(1958)よりMy Funny Valentine
Miles Davis (tp), Bill Evans (p) Paul Chambers (b) Jimmy Cobb (d) Edwardian Room, "The Plaza Hotel", NYC, September 9, 1958
マイルスとビル・エヴァンスの共演は有名なKind of Blueで聴くことができるのだけど、海賊盤スタディオマスターを聴くと、水と油の奇跡的な混じり合いの瞬間じゃないかと思う。だから一緒に演奏した期間はとても短い。その時期のライヴが残っていて、しかもマイルス1ホーンという、とても珍しいトラックが残っている。まあ能書きでの珍しさ以上のテイクでもないような気がするけど。


D.ブルーノートを聴け!
ボクも数えてみると100枚以上のブルーノートのアルバムを持っている。けれども、ここで云うブルーノートとは創業者アルフレッド・ライオンがプロデュースした1967年(だったかな?)くらいまでの時期のもの。その後は次第に似て非なるものに変容。ボクが聴きはじめたころはUnited傘下でEarl Klughまで出していたから。アルフレッド・ライオンのものは50枚くらいかなあ。
(13)Art Blakey: Night in Tunisia(1960) 中山本推奨盤
Art Blakey(ds), Bobby Timmons(p), Jymie Merritt(b), Lee Morgan(tp), Wayne Shorter(ts)
この時期のブレイキーのジャズメッセンジャーズの音楽監督は,マイルスバンドに移る前の Wayne Shorterなのだけど、ボクは好きじゃない音.あかん。すぐ切るからね。ボクならばBirdlandセッションを奨めたい。
(14)Art Blakey:  A Night at Birdland vol 1(1954)
Clifford Brown(tp), Lou Donaldson(as), Horace Silver(p),Curly Russel(b), Art Blakey(ds)
黒人司会の甲高いMCから当時の熱気が伝わる。トランペットは名手Clifford Brown。アルトの Lou Donaldsonは存命で昨年(だったか)の東京ジャズに出演していた。
(15) Pete RaLoca:Basra(1965)
Steve Kuhn(p), Steve Swallow(b), Joe Henderson(ts) , Pete LaRoca(ds)
ボクにとってのブルーノートの魅力は1960年代のオト。一連のHerbie HancockWayne ShorterのオトのCoolなコトったら。ちょとマイナかもしれないけどPete Ra Locaのこのアルバムもブルーノートの魅力に溢れている。1998年にマンハッタンのSweet Basilにテキトーに寄ったら、Pete LaRocaとSteve Kuhnが出ていて驚いたなあ。
(16) Wayne Shorter:Adams Apple
Wayne Shorter(ts), Herbie Hancock(p), Regie Workman(b), Joe Chambers(ds)
W.Shorterの1ホーンアルバム。なかなか格好いいから好きななのだ。


E. ECMを聴け!
まあ普段のジャズ会でもECMだらけなので、あえてか?、の感はあるのだけど。Kプロデューサー指定のアルバムからスタート。
(17)Keith Jarrett:the survivors suit (1976)中山本推奨盤、Kちゃん聴きたい指定盤
 (soprano saxophone, bass recorder, piano, keyboards, drums); Dewey Redman (tenor saxophone, percussion); Paul Motian (bass); Charlie Haden (drums).
Recorded at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, Germany in April 1976
当時の邦題『残氓』。映画と一緒で、近年のカタカナ英語題名のような手抜きはなかったね。なかなかピアノが登場しないアメリカンカルテットのECM初作品。その前のインパルスでは駄作が多かった、冗長な部分が多い、のだけど、さすがEicherのプロデュースで「聴ける」数少ないアメリカンカルテットの作品になった。ボクはEicher抜きのKeithはあかん、と思う。この『残氓』も聴き手を選ぶ、あの音世界に入って楽しいヒトは限られる、から初心者向きとは思わないけどなあ。ボクは好きだけど。大学の英語の授業で読んだArthur Miller(文章)& Inge Morath(写真)のIn the countryというエッセイを読んだのだけど、その郊外の廃れ行く地帯の風景と重なる。(イヤになったら手を挙げてください。次に行きます)
(18)Kenny Wheeler: Gnu High(1975)
Kenny Wheeler(tp), Dave Holland(b), Keith Jarrett(p), Jack DeJohnette(ds)
ボクだったらコレだけどなあ。英国のトランペッターのアルバム。まあ聴いてください。


E.現代のJAZZを聴け
まあ皆さん酔っぱらっている頃合いなのでテキトーに締めましょう。
(19)Joni Mitchell: Mingus(1979) 中山本推奨盤
Jaco Pastorious(b)やWayne Shorter(ts)の参加で俄然ジャズファンにも注目されたのだけど、そのような強者を従えて自分のサウンドをつくるJoniは偉大だなあ、と思うこの頃。
(20)Joni Mitchell: Court And Spark (1974)
Joniのジャズミュージシャンとの付き合いは,この頃からだそうで。クルセイダースの系統の奏者が参加している。フォーク歌手の範疇を越える音造りで、当時のヒットアルバム。ジャズ云々の議論が馬鹿らしいほど,素晴らしいアルバム。
(21)Joni Mitchell:Shadows and Light (1980)
Joni Mitchell(vo,g), Micheal Brecker(ts),Pat Metheny(g), Jaco Pastorius(b), Lyle Mays(p), Don Alias(ds)
当時最高のジャズミュージシャン達との全米ツアーのライヴ。
(22) Sting: Bring on the night (1986)
Omar Hakim(ds), Darryl Jones(b), Kenny Kirkland(key), Branford Marsalis(ts)
The Dream Of The Blue Turtlesの後のツアーのライヴ。これも当時の腕利きのジャズミュージシャンを集めて演っている。
(23)Björk: Debut (1993)よりCome To Me
いつだったかNHK-BSでみてからBjörkは気になっていた。
(24)Björk: Gling Gló(1990)中山本推奨盤
デビュー前(?)のジャズアルバム。それが案外いける。