K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

二月の金澤を歩いた夕暮れに早い春の匂いを感じた


二月の金澤を歩いた夕暮れに早い春の匂いを感じた。

春が近づいている。駆け寄るように近づいている。夕暮れに、肌に触れる冷たい大気からそれを感じた。外気温3℃なのにね。なんだか嬉しいような奇妙な時間。手持ち無沙汰な夕暮れに散歩の積もりで歩いたときの話。金澤駅から寺町台地上の安借家まで。古書店経由。

そもそもは五時半に空を見上げると明るい。もうそんな季節になっていたのか、と驚いた。普段は真っ暗な金澤の冬。だから夕暮れ時がぼんやりとしている。同じ頃、関東で降雪に見舞われたそうなのだけど、金澤はよい日和。空を見上げて歩いてみた。

天頂に半月が浮かび、暗い藍に染まりいく天蓋の至る所に星が浮かびはじめる。冷たい湿気を孕んだ金澤の大気がまとわりつく。春が近づいている、駆け寄るように近づいている、と思った。雪の中のイルミネーションが色褪せて見えた。櫻のことが気になりはじめた。あの、そわそわとした感じ。

竪町を歩く頃には暮れてしまって、暮れてしまった感覚が、耳元で子供の頃に連れ去られると言い聞かされた、あの感覚を呼び覚まして、早く帰らなくてはという気持ちを裏切る気持ち楽しく、好きな古書店に入る。時間の流れがゆっくりしていて、なんか悪いトコロに入ったような気持ちになってしまう、ことが嬉しい。

淡く晴れた夕暮れに古書店でぼんやり過ごす時間は楽し。店を出る頃には、すっかり暗くなって月星のもと、何冊かぶら下げて渡る櫻橋を吹き抜ける冷たい風が、やはり見えもしない春の予感に満ちたものだったのは何故だろうか。

そんな他愛もないことを思いながら櫻坂をあがると、ぽんと抜けるような感じで台地のうえにあがって、とうの昔に軌道がはずされてしまった古の路面電車路をとぼとぼ歩いて帰るのだ。