K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

月下の櫻坂をあるいたあと、明け方にみた夢

月下の櫻坂。なんたって金澤の月は大きく明るい、って改めてウブに驚いている自分に驚いた。

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このところ忙しい。忙しい。仕事を沢山した積りになって、少し晴れがましい気持ちになって、気晴らしが必要だと思った。だから普段よりも、とても沢山の映画を観て、その週の後半を過ごした。ちょいと趣味よしの映画をみせる小さな映画館がある街、に住まう愉しみ、を楽しむ。それは、ちょいと趣味よしの古書店があることと同じくらい嬉しいこと。うれしく楽しい。京都の学校に通っていた頃、30年振りの気儘な日々。

夜半まえ、映画帰りは綺麗だけど人通りの少ない竪町を通って、古物商の店が並ぶ新竪町通りを通って、櫻橋を渡る。今時分は満ちた月が、犀川河畔を、犀川から南にせり上がる河岸段丘を、犀奥から医王山にかけての山嶺を、上天からしらじらと照らしている。川面から吹き上げる冷たい大気が何故か乾いた匂いがして、春が近付いているような気分にさせる。

櫻坂をあがりながら、そんな気分で瀬の音、心地良い轟音とも云える音に浸って暫し刻をすごす。坂のうえで右に曲がれば、すっと静かになることが分かっているから、歩みを鈍らせるのだ。風に吹かれていたい。遠くで医王山が鈍く映しだされている。

背中から瀬の音が抜けていき、河岸段丘の台地のうえ、ぽおんと飛び出す感覚はいつものこと。眼に見えぬアジールを潜りぬけたのだ。なにもない、空っぽの、まっすぐの通り、櫻木通りを還っていく。疲れている夜半には寝床にそのまま入れないので、台地のどっかにあるカウンタに座って呑んで、ますます宵が深まるのだけど。

そんなふうな宵、仕事を沢山したので、気晴らしに普段より沢山映画を観て、毎度の映画帰りは櫻坂をあがって帰って、帰りきれなくて沢山呑んで、なんだかハレの日々を過ごした。そんな宵の過ごし方にいささか疲れたある夜半過ぎ、呑みも早々に引き上げて7時間も寝てしまった。近年稀なる原色の夢、色彩に溢れた湖上の田舎歌舞伎をみた。ボクは夢をほとんど見ない。見ることができる程、眠ることができなかったから。だから、その明け方の夢に今でもドキドキしている。映画をたくさん観た褒美か?

   ボクは独りで向かっていた。
   何処に向かっていたのかは良くわからない。
   独りなのだけど、ここが何処か、誰かに聞いた。
   どこからか、金沢の東のほう、大きな湖水があるあたりだ、
        と遠い声がした。
   まわりは古くからある山間の農村風景。
   ああ医王山やら湯涌だの、そんな方面かなあ、と朧げに考えた。
   どうもボクは医者に行かなくてはイケナイようで、
        その田舎にある古びた白いペンキ塗の洋館風の建物にはいった。
   昭和のはじめ、の頃のものか?診察室では、ボクのドアの閉め方が駄目だ、
        と同年輩の医師に叱られ、なかなか右足が痛む話を持ち出せなかった。
   だから、閉め方が悪かったドアから出て行くと、長い廊下が続いていた。
   木造の校舎のなかにいるようだ。
   右側の部屋が賑やかしい。
   大勢のヒトが無言でざわついていて、その真中に土俵のような舞台があった。
   金や銀、錦がまぶしい和装をまとったオトコとオンナが何かを演じていた。
   ゆっくりとした動き。顔をボクに向けているのだけど、
       その色の白さや、衣装の艶やかさとのコントラストだけ見えていて、
       顔がみえない。
   指先のうごきに見とれていた。
   誰かが、わからない誰かが、
       田舎歌舞伎ですよ、と教えてくれたような気がする。
   とても不確かなのだけど。
   その木造校舎の窓越しに、湖水がみえる。とても大きい。
   対岸は雪に覆われた峰々。
   急に、ボクの視点が少しづつ高くなっている。
   体が動いている感覚はないのだけど、
      気持ちと視覚だけが木造校舎の外の立木と同じくらいになった。
   湖畔に田舎歌舞伎の役者たちがたくさん。
   なぜかオンナ達のように見える。
   雛壇から抜け出た官女のような衣装。
   数人づつふわっと乗った三艘の舟が雁行のような形になって沖に滑りだしていった。
   漕ぎ手はみえない。
   祭礼か、とボクは高いところから眺めて思った。
   冷たさで蒼くなった湖水に、思いの外深い航跡が流れていった。
   最後は、先頭の舟から入水。
   衣装が湖底に沈んでいくのを、静かに眺めていた。
   ボクは、壇ノ浦の安徳天皇の入水の如きか、とボンヤリ考えていた。

 

映画を少したくさんみて、満ちた月のもとで櫻坂を散歩をすると、淡い夢のお裾分けのようなものを頂戴できるのかな、と思っている。そんな訳で、ここのところ櫻坂フェチのような気分に浸って過ごしている。金澤の早春。