この2週間ほど、気持ちの準備なく春が唐突にやってきて、櫻が咲き出して、犀奥には銀嶺が輝きだして、気持ちがそわそわした日々を送っている。仕事が年度始めで忙しいこともあるのだけど、もう少し違った理由でそんな気持ちを警戒している。
昨年は金澤に住んではじめての春だったので、気持ちを全部開いて満喫しようと考えた訳なのだけど、この濃厚ななにかに溢れる土地で気持ちを開くと、風が運ぶ大気の匂い、頬に触れる湿気の感触、花の香り、鳥の音、瀬の音、雲のつくる陰翳、朧げに浮かぶ大きな月など、さまざまなモノとの日々の交感に気持ちを持っていかれ、遂には疲れ果てしまうのだ。
いつだったか、鶴来の白山さんに参拝しながら感じたのは、古の人々が森羅万象・万物に神性を感じ、ヒトとの境がない世界のなかに生きていたこと。そのアニミズムの世界が、未だ息づいていること。だからその中で気持ちを開いて,素裸で入っていくことは、脆弱なヒトにはイケナイことなのじゃないかな、と思っている。だから、やや引きこもりのような感じで過ごしているのだ。
そんなことが頭の片隅にあって、櫻に酔い切れない気持ちもあるのだけど、いよいよ今週末で櫻ともお別れかと思うと、どうしようかと過ごし方を考えてもいるのだけどね。あの場所では、まだ大丈夫だよね、とか....
詰まらぬことを考えている夜半過ぎなのだけど、新しく届いたハーシュのアルバムを聴いている。以前の記事でハーシュのロシア作曲家集について取り上げたのだけど、これはついでに入手したフランス作曲家集。聴いてみると、ロシアの作曲家集と同じで、トリオの演奏は抑制的でとても美しい。フルートやギターが入ると、なんか通俗的なクラシック風ポップスのような味、昔ジェットストリームでかかっていたような、に堕ちてしまうのだ。そこが残念なのだけど、シールマンスはさすがに聴かせてくれたけどね。トリオの演奏だけでも儲け,の一枚とは思っている。特にラヴェルのクープランの墓での冒頭での演奏は聴きモノである。最近はヴェデルニコフのラヴェルにかなり痺れているのだけど、ボク的にはいい勝負だったのである。ハーシュはいつも聴いていて気持ちがよいのだ。
これはドビュッシーの月の光。
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Fred Hersch: The French Collection (Angel, 1989)
Fred Hersch trio: Fred Hersch (p), Steve LaSpina (b), Joey Baron (ds)
1.Suite bergamasque: 1st movement, Prélude (Debussy)
Fred Hersch trio+James Newton (fl)
2.Sonatine for Piano: 1st movement, Modere (Ravel)
Fred Hersch trio+Kevin Eubanks (g)
3.Sicilienne for Cello and Piano, Op. 78 (Fauré)
Fred Hersch trio+Toots Thielemans (Harmonica)
4.Prélude from Le Tombeau de Couperin (Ravel)
Fred Hersch trio
5.Après un rêve, Op. 7 no 1 (Fauré)
Fred Hersch trio + Eddie Daniels (cl)
6.Suite bergamasque: 3rd movement, Clair de Lune by Claude Debussy
Fred Hersch trio
7.Sonata for Flute and Piano: 2nd movement, Cantabile (Poulenc)
Fred Hersch trio + Toots Thielemans (Harmonica)
8.Pavane, Op. 50 (Fauré)
Fred Hersch trio
9. Valses nobles et sentimentales: no 2, Assez lent (Ravel)
Fred Hersch trio + James Newton (fl)
10. Pavane pour une infante défunte (Ravel)
Fred Hersch trio + Kevin Eubanks (g)
11.Gymnopédies (3) for Piano: no 1, Lent et douloureux (Satie)
Fred Hersch trio