Ralph Towner, Gary Burton: Slide Show (1985, ECM)
1. Maelstrom
2. Vessel
3. Around The Band
4. Blue In Green
5. Beneath An Evening Sky
6. The Donkey Jamboree
7. Continental Breakfast
8. Charlotte's Tangle
9. Innocenti
Ralph Towner(g), Gary Burton(vib, marimba)
すっかり先週あたりから時間の感覚がおかしくなっている。なんだろうか、その契機は。どこか、もうひとつの世界、眼に見えない膜のこちらとあちら、の間をとおり抜けたような困惑。なんだろうか。昨日は無蓋貨車から落ちたような、といったことと同じなのだけど。
週末から仕事で広島や長崎に出かけ、梅雨明けを知った。そして日曜の遅くに金澤に戻ってきた。地に足がつかない時間感覚に惑いながら、仕事のことを考えて焦っていた。指先が痙攣するような感覚。
いらつく気持ちを抑えるように聴いていたのは、ラルフ・タウナーとゲイリー・バートンのデュオ:スライド・ショウ。音を聴きながら惹起される題名のイメエジは、米国の大ホールでポジ・フィルムを投影したときのこと・あまりの大光量にセルが焦げ付く匂い、ではない(それは平成がはじまったころのボクのスライド・ショウのイメエジ)。遠い昔に、幻灯会と称してコマ落としの漫画のフィルムを薄暗い場所、学校だったか公民館だったかでみたときのこと。収差が出鱈目なレンズで出鱈目な薄い絵なのだけど、飛び込む虫が微かに焼けるような匂ひとともに記憶の片隅に残っている。セピア色の音。
ラルフ・タウナーは相変わらずの音で好きなのだけど、他ではかなり音数が多いゲイリー・バートンが響かせるようなヴィブラフォーンをしみじみ聴かせるところが気に入っている。うるさくないのだ。またマリンバの味わいも深い。
そんな心象風景に誘い込む白人二人のデュオは滅びいくような米国のアーバンエリアの翳んだような光景をしずかになぞっていくような感覚。すこしイラつくような気持ちを冷すにはちょうど良いアンバイなのだ。静かな饒舌。こんな音世界を40年にわたって積み重ねてきたECMの重みが、改めて気になっているこの頃なのだ。
これは同じ二人の別の作品:Match Bookより