K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

高橋アキ:Aki Takahashi plays Takemitsu (2001)


高橋アキ:Aki Takahashi plays Takemitsu (2001,東芝EMI)
   01. 閉じた眼~滝口修造の追憶に
   02. ピアノ・ディスタンス
   03. 遮られない休息~滝口修造の詩による 遮られない休息1
   04. 遮られない休息~滝口修造の詩による 遮られない休息2
   05. 遮られない休息~滝口修造の詩による 遮られない休息3
   06. レタニ~マイケル・ヴァイナーの追憶に 1.アダージョ
   07. レタニ~マイケル・ヴァイナーの追憶に 2.レント・ミステリオーソ
   08. フォー・アウェイ     試聴する
   09. 雨の樹素描     試聴する
   10. 雨の樹素描2~オリヴィエ・メシアンの追憶に
   11. 閉じた眼2
   12. 2つのレント 1.アダージョ
   13. 2つのレント 2.レント・ミステリオサメンテ
   14. ロマンス
   15. こどものためのピアノ小品 1.微風
   16. こどものためのピアノ小品 2.雲
   17. ゴールデン・スランバー (レノン・マッカートニー、編曲:武満徹)
  
 少し前に書いたことの繰り返しになるのだけど、ノヴェンバー・ステップを最初に聴いてから武満徹の曲に全く関心が持てなかった。つい最近になってからピアノ曲を知り、時としてとても気分に合うようになった。硝子の破片が散らばる中、射し込む光の方向が定まらず、いつまでも揺らいでいるような乱反射に目眩がするような。いつか見た夢、想い出せない夢の断章を掻き集めたような心象に、痛みを伴うような過去への憧憬が折り重なる。
 最初に聴いたのはPeter Serkinの演奏。とても正確に刻み込むような感じ。硝子の破片の角で光が細かく回折する様が見えるような、鋭利な音のカケラを突き出される。音の温度はとても低い。無機的な音との境界まで降りていく。
 Serkinの後に手にした高橋アキの音、少しだけ音の温度が高く、そして時間の流れの中で、硝子の破片が摩耗したような、やや柔らかい光を放つ。だけど、その柔らかさはボクの気分を少し温めてくれるような感触があって、音のカケラが内包する美しさとともに官能的な作用を高めている。要は聴いているときの気持ち良さ、が素晴らしい。稀に音の固まりが崩れかけるように感じることもあるのだけど、そんなことはどうでもいい。
 ボクがECMのアルバムを手にするとき、意識せずに期待している音の世界って、実はこんな感じじゃないかなあ。厳しく意識の基層に鼎立するようなものではなくて、静かな冬の夜に降り積もる雪のように、静かに包み込むような音。包まれているうちに命を落とすかもしれないのだけど、その暖かいような冷たさ、未だ経験していないのだけど官能的な何かに憑いてくるような蠱惑があるのだ。いつまでも醒めぬ夢、もう起きなくても良い眠りへの誘惑。

 そんなことを考えていて、なかなか寝付けないカルフォルニアの夜の深さ、大気の透明度が高いから、を感じてしまって面白かった。