1970年代の山下洋輔は大好きで、ほぼレコードも揃えたように思う。初期の「Dancing 古事記」や「April fool」が「やや」入手難であるが、流通数自体は決して少なくなく、当時の山下洋輔人気、を彷彿とさせる。トリオではないフラスコ盤の何枚かはまだだが、入手は容易だし、CDはあるので、価格が安いモノが出るまで放置、のスタンス。
この時期の山下洋輔は海外レーベルからも出していて、ENJAとMPS。あと、ポーランドのレーベルからライヴ。これらのなかでMPS盤は見たことがなくて、ENJAとポーランドは原盤を入手。果たしてMPSから本当に出たのか、疑問だった。要は、レーベルの名義貸しだけで、実質、テイチク盤じゃないかと疑っていた。
ところがDiscogsを見ると西独盤があるではないか。丁度、足繁くレコード屋に通っていた1980年頃に見かけなかったのは不思議なことだ。
ジャケット違いであるし、当時の西独盤は音が良い印象が強いので、入手してみた。ただの物好き、ということなんだけど。数多の山下トリオのなかで、このレコードが一番好きかな、と思う。欧州録音でのピアノの響きの違い、を感じたものだ。
で、日本盤、西独盤を聴いて驚いたのは、日本盤のほうが音が良いこと。西独盤はやや高レベルで、楽器の分離が悪い。トリオの演奏になるとゴチャゴチャするのだ、日本盤はレベルがやや低いが、音の透明度が良く、楽器がよく粒立っている。
そう西独盤は米盤のような音色で、日本盤が西独盤のよう。無駄な買い物、だったのだ。やれやれ。
追記:これも何回か聴いたら、音が開くのかな、と思い、3回ほど回した。上記の酷い印象は消えたが、それでも日本盤のほうがいいかな。
[2012-01-23記事] フリージャズと呼ばれた音楽をなぜかもうひとつ
(日本盤ジャケット)
フリージャズと呼ばれた音楽をなぜかもうひとつ。
日曜の朝、アンソニー・ブラックストンを聴いた後に聴きたくなった。山下洋輔の1975年のライヴ。ベルリンだったかな。最初から最後まで熱狂するドイツ人(ペーター・ブレッツマンみたいなオヤジだったら怖いな)のなかで、汗飛び散らし脈動する音楽。
最初に聴いてから30年経ったのだけど、ビートという概念ではなくて、パルスというようなリズムが際だって面白いことに気がついた。そう森山威男が叩きだす正確無比なパルスが圧巻。しかも熱くならない。冷徹に緊迫している。豪快にブロウする(ように聞こえる)坂田明のプレイも、森山のパルスにあわせたパルス状の音で応酬している。面白い。
山下洋輔のピアノもまあ快調。疾走しながら積み上げていく音を最後まで詰め切っていないような気持ち悪さが所々あるのだけど、まあ森山のパルスのあおりの中だから仕方がないか。時として煌めくような音が出るのだから、持続性が欲しいよなあ。
それにしても曲の配列も楽しい。ダブル・ヘリックスでは山下・森山のデュオ。その緊迫感は「プロレスのように毎夜のように興業している勝負」であることを忘れさせる程。ピアノというオーケストラ並の表現力があるピアノと互角の音を出すドラム。ニタは山下のソロ。きちんと冷たい音で自己完結的な音世界を表現しているのだから、やっぱりいいなあと思う。そしてキアズマへ向かう森山のパルスの高まりが、もう堪らない。
そんな訳でフリー・ジャズではじまった爽やかでない日曜が終わったのだけど、良い一日だったのか、駄目な一日だったのか、は内緒。
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山下洋輔:Chiasma (1975, MPS)
A1.Double Helix
A2.Nita
A3.Chiasma
B1.Horse Trip
B2.Introhachi
B3.Hachi
山下洋輔(p),坂田明(as),森山威男(ds)
Producer, Design [Cover Design]: Horst Weber
Recorded by Carlos Albrecht
Recorded live June 6, 1975 at the Heidelberger Jazztage.
西独盤
レーベルのcreditが、Akita Satoになっている。
日本盤