K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

午後のジャズ会---Yのオトを聴く


 この会のプロデューサの指令で(この会は彼に聴かせる会なのだ)、最近聴きに現れるYが保有する盤の特集になった。その人間に興味をもったとき、話しを聴く、飯を喰う、サケを吞む、いろいろなアプローチがあるが、オトの好みもそのヒトを知る手がかりとなる。読まなくたって、読んだフリができる本よりは、固い調査手法だと思う。どうやらプロデューサはYに興味を持ったようだ。そのまえにはクラシック・ファンのメンバーに興味を持ったので、やはり保有盤の特集を指令し、何と「ゲイ」という観点からの艶っぽいクラシック名盤が集められた。やれやれ。
 かくゆうプロデューサKはサザンとビートルズが好みという明快な指向・思考なので、覗き見する面白みはヤヤ弱いのだけど、サザンとビートルズも捨てたモノじゃないぜ、とばかりに露出してきた。ボクは最初から(人格を)露出しながら選盤している(周縁指向)から、飽きてきたかもしれない。そんな訳で、彼は興味を持ったヒトに、(人格の)露出を強いるのだろう。新人イジメって、そんなものかも知れない。(何のこっちゃ)

 そのプロデューサKが最初にYと会ったときの印象は「不思議ちゃん」と云っていたような気がするのだけど、選盤結果は不思議そのもの。跳び跳ねる無境界選盤。その約2時間の音源に、ボクの2時間の対抗盤を充てるような形でメニューを作った。相変わらず騒音問題が怖くて昼下がりの情事、ならぬジャズ会。
 
 以下、[Y]はYの選盤。[K]はボクの返盤(ってコトバはあるかな)

A. Prologue
[K]Pablo Ascua: Sones Meridionales (2011)
最初はボクのオトから。最近、気に入っているアギューレのレーベルの新作。南米のギター楽曲


B. The first set
ここからYの選盤スタート。最初はジャズとかブルースから。やっぱりジャズ会だしね。
1. [Y] Rosemary Clooney: Come On A My House

   [K]笠置シヅ子: 東京ブギウギ
   聴いてみたらブギのような軽快なはじまりのローズマリー・クルーニ、という訳で戦後日本の歌謡ジャズから
   


2. [Y]Lambert, Hendricks & Ross: Lambert, Hendricks And Ross Sing Ellington(1958)


   [K]The Manhattan Transfer: Vocalese (1985)
   LHRのLPジャケットはアニー・ロスが凛々しくていいなあ。このグループってアニーとヘンドリックスの掛け合い(漫才で云う)のようなグループ。先般、ヘンドリックスは90歳記念コンサートをマンハッタンのブルーノートで。お達者らしい。ゲストがアニー・ロスの表示をみてメマイがした。器楽を声で演るヴォーカリーズ・コーラスではいまでも一番じゃないかな。テクニックを感じさせない軽妙さが素晴らしい。雰囲気で頑張っていたマンハッタン・トランスファーだけど、LHRに比べるとねえ。最近はどうなのかな?


   [K]Annie Ross: Sings a Song With Mulligan (1957)
   アニー・ロスは早々にLHRを脱退。ソロもなかなか素敵でブロッサム・ディアリーとともに好きな歌い手。よく考えたら二人とも英国出身。

   [K] Blossom Dearie: Once upon a summertime(1959)
   Girlishと称された晩年まで続くこの声が大好き。嫌いなジャズ・ファンは多いけど、エラ、サラが苦手という「ヘン」なジャズ・ファンには人気があるという。

   [K] Billie Holiday: Lady In Satin (1958)
   そのアニーロスが晩年のビリー・ホリディと友達と知って驚いた。テレビの番組に出演して死期迫るホリディの想い出を語っていたので。これはホリディの最後のアルバム。


3. [Y] Big Jay McNeely: Best Selection Of Big J By Dulfer

   [K] King Curtis: Live At Fillmore West [Live](1971)
   Big Jay McNeelyを聴くとアレサ・フランクリンのバンドを演っていたキング・カーティスが上品にきこえる。ブルース・サックスは滴るような真っ黒なオト。


C. The second set
いつだったか、小曽根真ショパンの曲からボッサの出来上がりを弾きながら説明してくれて、深ーく納得できたような気がした。クラシックからブラジルのオトへの揺らぎの継ぎ目って面白い。
4. [Y] Mario Brunello: Solo Cello and... (2007)

   [K] Brad Mehldau: Modern Music (2011)
激しいチェロの現代曲は荒ぶる音が剥き出し。繰り返されるオトの連鎖が始原のオトへの試みのようにきこえる。20世紀の音楽って、民族音楽を取り入れて生気を取り戻している。そしてライヒとかのミニマル・ミュージックも聴いていると、オトのはじまり、呪術的な在り方へ還っているように感じる。単純なオトの繰り返しの微妙な差異が昂揚感を造り出す。そんなライヒのオトが再びジャズというごった煮のプラットフォームに再構築されて美しい。


5. [Y] Nana Vasconcelos, Sami Ateba: Lambarena - Bach To Africa (1995)


   [K] Virgil Fox: Bach Live at Fillmore East: Heavy Organ (1971)
ナナのアルバムは、今回一番驚いた一枚。見逃していた。ブラジルの打楽器奏者が演るアフリカとクラシックの出会いってアリか、と叫びたくなるほど面白い。かなり戦意喪失モノの音を聴かされて、選盤が辛い。かなり投げやりな感じで選んだのは電子オルガンによるバッハ。演奏場所と時代をみると、それが異様なことだと気がつくだろう。あの時代のあの場所でのバッハ。
 


6. [Y]Quarteto Em Cy: Antologia Do Samba Canção(1975)


   [K]The Singers Unlimited: A Capella (1971)
南米のコーラスって穴。あのアルバムと大好きなシンガーズ・アンリミテッドって確かにオトの空気感が一緒。ボクの部屋に来たヒトは必ず聴く一枚。


7. [Y] Sergio Mendes: Timeless (2006)

   [K] Sergio Mendes & Brasil '66: Live At The Expo '70(1970)
あのアルバムはボクも持っていた。南米お達者クラブの会長のようなセルジオ・メンデス。ボクらの年齢でセルジオ・メンデスはコレだなあ。懐かしいヒトは懐かしい。これは千里が丘の竹藪を開墾して作られた「万博会場」でのライブ。カメラぶら下げた亡父に連れられて行ったことを思いだした。その横でこんなオトが出ていた「洋楽」天国だった日本。Yは生まれてもいないよな。プロデューサもオムツが取れて暫くのころだなあ。


D. The third set
エスニック的な薫りが強くなる欧州の古層を訪ねる。
8. [Y] Ecclesia Ensemble: 古いイギリスのキャロル(1991), Noël (1995)

   [K]Aynur Dogan: Rewend (Gocebe) (2011)
古い欧州の曲って、ボク的には今の中東の音楽と区別がつかない。根拠が全くないのだけど、バグダッドからイスタンブールそして地中海圏のような文化の流れがあって、ある程度汎世界的なオトが分布していたのじゃないかな、と夢想したりする。


9.[Y] 無印14 ケルトNo.3 (2008)

  [K] Pierre-Laurent Aimard: Hommage A Messiaen (2008)
ローマ人(ラテン系民族)やゲルマン系民族が席巻する前の欧州には広くケルト人が住んでいたらしい。それが大陸ではブルターニュ島嶼ではウェールズやスコット・ランドやアイルランドまで押し出されたらしい。ゲルマン系民族のケルト人の記憶がグリム童話に出てくる「森のこびと」らしい。ボクは仕事で随分とケルト系のヒトと仕事をしたけど、シニカルで酒呑み。そして正直。ウマが合ったなあ。それはさておき、これも根拠のないことなのだけど、メシアンの曲を聴いていると、太古の欧州の光景と、そこに在る聖性を有する何か、が淡く浮かび上がるような気がする。もはや「森のこびと」と化してしまった古びた記憶の残滓のような。


10. [Y] Shantel: Planet Paprika (2009),Disko Partizani(2007)

    [K] Biréli Lagrène: Summertime (2009)
ロマの音というと、ボクはラグレーンのギターを想い出すなあ。このラグレーンとリュクのデュオはいつ聴いてもいいなあ。とても好み。

 
D. The fourth set
そして世界の果てまで広がるオト
11. [Y] Va Fan Fahre: Al Wa' Debt (2010)

    [K] 知名定男: 瀬戸内音楽祭
うーん、探し疲れて来たから、ここは手抜き。日本のエスニック音楽の王道、島唄で誤魔化す。


12. [Y] Youssou N'Dour: Nothing's in Vain (Coono Du Reer) (2002)

   [K] Richard Bona: Scenes From My Life (1999)


清水靖晃: Aduna (1989), Dementos(1988)
アフリカのジャズ奏者のなかで、ボナの柔らかさ暖かさが好みにとても合う。日本からみたアフリカは随分遠くて、そのイメージをオトにしたら清水靖晃のあんな感じ。清水靖晃のほかのアルバムと合わせて。


E. The fourth set
いきなりテーマを変えて、旬のような女性の歌い手だそうで。
13. [Y] Lisa Hannigan: Passenger(2011)

14. [Y] Fiona Apple: When the pawn (1999)

   [K] Kate Bush: The Kick Inside(1978), Aerial: A Sea of Honey(2005)
ボクにとって旬と思えた歌い手は1978年のケイト・ブッシュ。このLPジャケットの眼に射られ、あのエキセントリックな声が大好きだった。いまだ健在なのはご同慶の至り。


F. The fifth set
そして日本の歌い手に
15.[Y] 小野リサ: Dream(1999)

16.[Y] 手嶌葵:コクリコ坂からの歌集(2011)

   [K]Choro Club with Vocalistas: Takemitsu Songbook (2011)アン・サリー, 沢 知恵, おおはた雄一
ボサ・ノヴァって脱力系音楽だし、はじめて聴く手嶌葵も。武満徹ってそんな脱力系音楽とは対極にある存在のようで、彼が書いた「商業音楽」の軽さは楽しい。


17.[Y] 浅川マキ: LIVE (1971)から「朝日のあたる家」
   [K] 同盤から「さかみち」

   [K] 浅川マキ: ふと、或る夜、生き物みたいに歩いているので、演奏家たちのOkをもらった(1980)

   [K] 渋谷毅: 蝶々在中(1998)
ボクが持っている唯一つの浅川マキのLPは大晦日紀伊国屋ホールでのライヴ。萩原ギター、今田ピアノが素晴らしい。ジャズとかどうとか、じゃなくて音楽として「立っている」。それが1970年代のはじめ。1980年代には渋谷毅のピアノや川端民夫のベースと。それが1980年のライブ。アノヒトが死んだなら、のフレーズには痺れた。浅川マキの故郷にほど近い小松で渋谷毅/川端民夫がライブ録音したのが蝶々在中。何と頂き物なのだけど、聴いてビックリ。日本のジャズの匂いがぷんぷんする奏者達。


G. Epilogue
最後の[Y]の選曲にボクはタマげた。恥ずかしくて書けません。
   [K]美空ひばり: お祭りマンボ(1957)


 昭和歌謡のようなハジマリとオシマイ。メチャクチャやね。