K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Chet Baker:Daybreak(1979) 雪降る弥生の夜半に


 昨夜は陽が沈む頃から気温が急に下がりはじめた。天気予報は翌朝の雪を告げている。もう弥生の頃だというのに。仕事場に陰がさしたような気がした。なにか気持ちまで冷え込むような感覚で、珈琲を呑みながらぼんやり窓の外をみていた。満ちた月が照らしていたのだけど。

 夜半前に仕事を止めて帰宅した。その頃には、月があるであろう上天のあたりがぼんやりと明るいだけで、周りに霞のようなものが流れていた。ほどなく雪降る弥生の夜半に呆然としていた。週末だから、まあいいのだけど。

 届いていたのは、注文していたCD3枚のうち、Distributerが同じ2枚。Chet Baker TrioがコペンハーゲンのクラブMontmartreで行ったライヴ録音。数週間前に亡父のLPのなかに交じっていた同時期のスタディオ録音Touch of your lips(ビル・エヴァンスの唄伴でトニー・ベネットが歌う録音が好きだ)を聴いて、すっかり気に入って、このモンマルトル・セッションを注文していた。

 ドラムレス。トランペット、ベース、ギターのトリオ。無駄を削いだような、簡にして要を得たオトが流れていく。ピアノ・トリオでも、ピアノ、ベース、ギターの編成は古いスタイル。1950年代のオスカー・ピーターソンがそう。音色としては、デュオに近くて、夜半に聴くオトに相応しい空気。丁々発止というよりは、ヒトリ・ヒトリがゆっくりと語る継いでいくような演奏。居眠りをしながら、届いた二枚を二回聴いた雪の晩。

 デンマークのレーベルSteeple Chaseは、欧州ジャズの雰囲気を伝えるようなレーベルではない。むしろ、多くのアメリカの奏者を取り上げていることで有名。だけど、その演奏に流れる空気は明らかにアメリカのものではない、と感じる。それは何だろうか。尖った情念よりも、柔らかな感傷のようなものが溢れている。勿論、そんなにはっきりした感触ではなくて、ほんとうに淡いものなのだけど。

 彼が転落死してから20年を超えた今、こんな空気を運んでくれる音盤を聴いていると、リアル・タイムに1979年10月のコペンハーゲンに居るような不思議な気分なのだ。

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Chet Baker:Daybreak(1979,SteepleChase)
   1. For Minors Only
   2. Daybreak
   3. You Can't Go Home Again
   4. Broken Wing
   5. Down
Jazzhus Montmartre, Copenhagen, Denmark, October 4, 1979
Chet Baker (tp) Doug Raney (g) Niels-Henning Orsted Pedersen (b)