音楽を聴くということに、時として入り込んでしまうときがある。時間は止まっているし、ただ無表情・無感情にオトに反応しているのではないか。知らぬうちに、見知らぬアチラへ渡っていくような。そんな不思議な浮遊感を求めているときがある。
そんな知覚を求めるとき、ジャズのような身体性が強い音楽よりも、抽象性が強い現代音楽や現代に近いクラシックが向いているように思う。そして、あのアイヒャーのECMレベールが出すクラシック・現代音楽のシリーズECM new seriesがそのための音世界を提供してくれていると感じる。
クラシック音楽には常に音を詰め込んでいくような感覚があって、そのための技巧が競われるような側面がある。だから、音の美しさを感じさせるような瞬間、沈黙、が上手く作られていない場合が多い。だから、音の美しさを受けきれない、うるさいような圧迫感がある。だけど、ECMが提供するオトが、ECMの惹句"The Most Beautiful Sound Next To Silence"の通りであるならば、たとえクラシックであったとしても沈黙の在り方が特色になっているのではないか。そんな期待がある。
だから最近はECM new seriesのアルバムを見つけるとテキトーに手にしている。これもそんな一枚。まさに期待のとおり、The Most Beautiful Sound Next To Silenceを感じさせてくれる。ギリシャのヴァイオリン奏者が弾くラヴェルの曲そしてルーマニアのエネスクの曲は民族音楽的でもあり、そして沈黙をもって饒舌に美を語るような瞬間が何度もある。すっかり感情のようなものの外で聴いているような気分になることができた。
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Leonidas Kavakos: Maurice Ravel,George Enescu(2002,ECM)
1. Sonate posthume(Ravel)
2. George Enescu(Enescu)
3. Impressions d’enfance, op 28(Enescu)
4. Sonata No 3, op 25(Enescu)
5. “dans le caractère populaire roumain”(Enescu)
6. Tzigane – Rapsodie de concert(Ravel)
Leonidas Kavakos(vln), Péter Nagy(p)