9月に入って、雲が流れる秋空を眺めていることが多い。真っ青な晴天のつまらないこと。だから夏が終わると涼しくなり、そして雲が流れるようになる。冷たい風に乗って、虫の音が聴こえる。そんな夜はいつまでもぼんやりしていたい。
父が鬼籍に入ってから1年が経とうとしている。後に残ったのは数100枚のLPレコード。8割くらいがジャズ。普通と逆なのだけど、ボクの影響。30年ばかり前、ボクが600枚ばかりのジャズのレコードを持って、家を出た。その後、彼は急速にジャズに魅了されて、オーディオ・セットを揃えて、レコードを蒐集した。そして今、ボクの部屋に全てが並んでいる。
ボクと随分趣味が違う。スィング期からハード・バップ全盛期までの録音が多い。CDよりもLPレコードの方が多い。所謂名盤はそれなりに重なっている。でも、ボクが持っていないものは、あまり趣味が合わないものが多く、どちらかと云えば放置に近い。そんな状態で、この二ヶ月あまり、LPレコードを50枚ばかり買っているのだから、我ながらキチガイじみているように思う。
嬉しいことに、ビル・エバンスは共通する好みの奏者で、随分と未入手のLPレコードが手に入った。稀少盤なんてないけどね。今宵、亡父から譲られたLPレコードに針を下ろす。盤面に針を下ろしてから、針のエッジがレーベル面に当たるまでの20分あまり。ピアノのトーンを聴き続ける。昔、なんで興味を持てなかったのか不思議。甘い感触の音だけど、近づくと厳しい切り立ったような印象になる。すっと流れるような音だけど、聴き流せない力を持っている。暖かい情感を感じされる音だけど、冷たい意識の底を覗き込むような感覚がある。様々な二極を行き交うような、複雑な感情を残して、再び針が上がる。そして、吹き込む風の感触や虫の音に再び気がつく。
そんな夜半過ぎを過ごしている。
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Bill Evans: Alone Again(1975,Fantasy)
A1. The Touch Of Your Lips
A2. In Your Own Sweet Way
A3. Make Someone Happy
B1. What Kind Of Fool
B2. People
Bill Evans(p)