K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Gerhard Oppitz: Japanese Piano Works(2011) 静謐な春を過ごす


 ボクのなかで春は、温い大気のなかで泳ぐ桜花を眺めることからはじまった。南からの風が吹き込む頃、一気に花が咲く。いつも柏尾川沿いの変電所に咲く桜が一番。3月の第三週の頃。桜が咲く頃は夜も肌に纏わりつくような暖気だけが記憶に残っている。そういえば夕暮れまで源氏山で花見をして、真っ暗な化粧坂を酔って下りたのはいつの頃だったか。狐狸に欺されてもおかしくない宵だったのだけど。そんな感触が好きだった。

 その後15年近く経って出会った金沢の春、無地の衝立のような医王山の前に広がる犀川の桜。それを気にしてから更に10年余りで、この地に移り住んだことになる。そして4月になると、そんな光景をいつまでも眺めている。ただ夕暮れからの冷え込みは知らなかったことで、多分に大気との組み合わせで感じていた桜の肌触り、のような官能的な感触は、ついぞ味わえたことはない。とても清らかな感じで、やや味気ない。

 だからそんな静謐な春を過ごす、金沢。独り仕事場で時間を過ごしていると、後ろから引っ張られるような無音の空間のなかにいる。ふと音を聴きたくなって、低くピアノ曲を流した。オピッツの日本の現代曲集。藤家溪子のピアノ曲( 諸井三郎ではありませんでした。気がついて修正しました)。冷たい水のような感触がそんな気分にとても合う。激流でもなく、澱んだようなゆるやかな流れでもなく、陽光のもとで煌めく畦道端の用水のような流れ。冷たいのだけど、淡い温もりがあり、水の匂いが立ち籠めるような。そんな場所で無為に過ごしているような寂しげな心象が投影されていく、そんな感触が気分に合う。

 音が過剰に詰め込まれていなくて、発せられる音がより静謐な場に収斂されていく。音と音の間の音を聴いている。ボクが日本的だと感じるものを紡ぐ奏者。静かな仕事場で音を聴きながら、そこには音はない。ただ流れていく時間のピッチが細かく変調されているような感触が残っていく。

 このアルバムはクラシックの音源で参考にさせて頂いているブログの記事で知った。爾来、味をしめて日本の現代曲を気にするようにしているが、そう美味しい話しは沢山ない。だから何回も静謐という音を反芻している。

ナクソスのアーカイブで部分的だけど試聴できます。

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Gerhard Oppitz: Japanese Piano Works(2011, Haenssler)
   1. 諸井三郎:ピアノソナタ第2番
   2. 武満徹:雨の樹素描
   3. 池辺晋一郎:大地は蒼い一個のオレンジのような
   4. 藤家溪子:水辺の組曲(全12曲)
Gerhard Oppitz(p)