K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Steinar Raknes @新宿PIT INN:30年ぶりのピット・イン


 何年ぶりだろうか。随分昔のことになるが、関西から関東に移り住んだときに、ピット・インに何回も行った記憶がある。山下洋輔トリオの「崩壊過程」で、武田和命とか国中勝男、林栄一を聴いた記憶がある。あとビル・ラザウェルを中心としたセッションとか(Last exitってアルバムになっている)。だから1984年くらいまでじゃないかな、割と出かけたのは。だから記憶の限り、 ほぼ30年振りとなる。

 ボクの記憶の中は、紀伊國屋の裏。近くにDUGがある。1980年の夏にはじめて行ってから変わっていない。昼間の薄汚い裏通りが、夕暮れの後、不思議とそれなりの雰囲気と変貌することに驚いたのも懐かしい。ピット・インの夜の部で聴いた後、DUGで一杯やった。

 今回、仕事で東京に出かける用事があって、そのタイミングでサーメ人のヴォーカルであるSkaidi(スカイディ)とノルウェイ人のベーシストSteinar Raknes(スタイナー・ラクネス)ソロ ・ジョイント公演がピット・インで行われることを知った。東洋的な歌謡を唄うサーメ人(昔、ラップ人と呼ばれた人達)には、マリ・ボイネで関心を持ったので聴きに行くことにした。

 予約時にスカイディ入院で来日断念のニュースを聴いて、止めようと思った。だけど何となく懐かしい気持ちになったので、結局ピット・インに行くことにした。まず驚いたのは移転していたこと。それすら知らなかった。少し遠くになっていて、また入り口あたりの風情に面影はない(地下から伸びる行列に並んだときに、浅川マキ公演のチラシをもらったことを思い出した)。

 さてスタイナー・ラクネスだけど、ギターのように自在にベースを操り、歌を唄う不思議な音世界。ジャズを根底にしている、というよりフォーク・ソングに近い。キース・ジャレットのFacing you(これはピアノだけど)のような草や風の匂いのするような素朴な空間。ときに高音域で微妙なうねりを出しながら調和したり、図太いビートを送り出したり。コントラバスという楽器の隅々まで使った北欧のヴァーチュオーゾ。素朴な歌との微笑ましいアンバランス。

 さて演奏が終わって地上に上がる階段に立ったら、「あのヒト」が紫煙を揺らしていた。そうモノトーンの世界の中で。ピット・インってそのイメエジだったんだよね。