K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Keith Jarrett Trio@Festival Hall なぜ彼らを聴かなかったのか、を考え込んでしまった


 行きたいような、行きたくなかったような、どちらかと云うと関心があまりなかった、という方が正確かもしれない。ソロ・ピアノを聴きたい、という気持ちはとても強いのだけど、あのトリオにはなかなか食指が動かない。それなりにCDを持ってはいるが、再生頻度はとても低い。理由を考えたことはなかったけど。

 それでも今回のコンサートは行くことにした。彼らも高齢者集団になったしね。実はライヴ出不精なのでキース・ジャレットを生で聴いたことはなかった。熱心だった時期は来なかったし、憑きものが落ちたように聴かなかった時期が20年以上あったしね。ゲイリー・ピーコックリー・コニッツとのライヴ(NY Blue Note)から2年ぶり。ジャック・デジョネットはデイヴ・リーブマン/リッチー・バイラークとのコルトレーン追悼演奏(読売ランド)から25年ぶりじゃないかな。

 熱心に聴いていた頃、American Quartetからレッドマンが抜けたらなあ、とか、European Quartetからガルバレクが抜けたらなあ、なんて思いながら聴いていた。(時には騒音にしか聴こえない)レッドマンが入っていて、あんなに素晴らしいのだから、って溜息をつきながら。だからゲイリー・ピーコックのTales of anotherは宝物のようなアルバムだった。ジャック・デジョネットは一連のマイルスとの共演盤でみせたような攻撃的なドラミングが魅力だと思うのだけど、ここではとても繊細なシンバルが魅力。ピーコックの素朴で内向的なベース、饒舌でなく、過度の装飾もない弦の響きを揺らす。インタープレイが美的に昇華した稀な例じゃないかな。だから、あのStandard集については、何か物足りなさ、というより違和感が強くて、気持ちの中で空白のようになっていた。

 前置きはさておき、初めてのキースというのに、そんな背景もあってサバサバ3階席に着席。漆黒の闇の底にステージが浮かび上がるような、巧いライティング。観客の呼吸がホールの空気となって伝わる。音響の良さを予感させる。最初の二曲は典型的な4ビート曲。All of youとDjango。聴きながら、なぜ彼らを聴かなかったのか、を考え込んでしまった。ピアノとホールの音響の良さに驚きながら、やはりインタープレイという点では薄味すぎる。またキースのピアノは典型的なジャズ・ピアノのように少ない音数で聴かせるが、そこにブルージイな味わいがないので、穴が開いたような音。こんなことを思うと楽しくないなあ、とか考えていた。勿論、音の粒立ちはよく、ピアノには深く満足する部分はあったのだけど。結局、Standardsと称する路線に馴染めない理由もコレか、って納得して(も意味は無いが)しまった。

 3曲目、4曲目で耽美的な曲調に変わり、ピアノの語り口が大好きな「あの」感じに変わった。デジョネットのドラムが美しく添えられる。美しい、と感じられるドラム、なのだ。キース・ジャレットの魅力がフォーク的な曲調にある、つまりFacing youで感じた味わいと変わらないのだなあ、と思った。美しい。ピアノとヒトの一体感が強く、深く感じられる。コレなんだ、って思った。圧倒されたのは、5曲目のStraight no chaiser。もう最初のような「穴」は感じない。デジョネットとの白熱するドライヴ感。厚手の硝子が砕けたような、断面の散乱光のように音が飛び散っていく。この緊張感が与える昂奮、音の記憶がすっぽり飛んでいる。前半のセットで十分な満足が与えられた。そして、気持ちが合う演奏をピックアップして、自分用のアルバムを作ろうかな、って思った。

 だから後半は何も考える必要もなくて、ただただ美音の応酬に身を浸していた。キースも神経質な感じはなくて、拍手のタイミングが悪い観客(うるさかったなあ)に、手を止めて突っ込みを入れる余裕。すっかり楽しんでしまった。アンコールは3曲。Bye bye blackbirdではじまった。そして2曲目のメロディの美しいこと。その余韻に涙ぐんでしまった自分に驚いた。そんな経験ははじめてだった。3曲に及んだアンコールが終わったら21:30。20分の休憩を挟んだ2時間30分が終わった。心地よい疲れ、のなかで帰ることができた。

 あ、それとね、デジョネットのドラムも堪能できて、大好きなSpecial editionのあの音だよねって音も健在で嬉しかったなあ。

 ホールの音響もよく、控えめだけどよく設定されたPA。次はソロ・ピアノを何としても聴きたい。

[5/12 フェスティバルホール曲目] 鯉沼ミュージックサイトより転載

1st
1. All Of You
2. Django
3. The Bitter End
4. The Old Country
5. Straight No Chaser

2nd
1. Last Night When We Were Young
2. Conception
3. I Thought About You
4. One For Majid
5. I Fall In Love Too Easily

Encore
1. Bye Bye Blackbird
2. Answer Me, My Love
3. Things Ain't What They Used To Be

 

追記:

・隣の客が足でリズムをとったのには参った。

・キースのピアノに関してはclosingの余韻を楽しみたい。性急な拍手はどうも気にくわない。曲の導入部から主題に移るときに拍手をしていた輩もそう。ジャズなのだけど、様々なピアノの楽しみ方がある。巻き込まないで欲しい、と思った。