ビル・エヴァンスが亡くなって33年。51歳でこの世を去ったエヴァンスの初リーダー作は1956年で27歳。僅か24年の時間のなかでアルバム発表をしていたことを改めて認識し、驚いてしまう。短くも儚い。
そのリーダーとしてのキャリアの最初の1/3はRiverside recordsでの吹き込み。そこでの名声が全てを決定し、エヴァンスも聴き手もその重圧のなかで、その後の2/3を過ごしているようにも見える。それだけ、素晴らしい録音のレコード。
そのRiverside時代のLPレコードを当時のプレスのもの(オリジナルと書かないのは、オリジナルかは不明なので)を入手した。「時代の音」の缶詰。その美音をともに聴く会としたい。今回はRiversideでのトリオの演奏を取り上げる。
1. Prologue
(1) Miles Davis: Kind of Blue (1959, Columbia)
Miles Davis(tp), Julian "Cannonball" Adderley(as), John Coltrane(ts), Paul Chambers(b), Jimmy Cobb(ds)
Bill Evans(p except "Freddie Freeloader"), Wynton Kelly (piano on "Freddie Freeloader")
エバンスが広く知られるようになったマイルスのアルバム。このアルバムが吹き込まれていた時には、既に短い在団期間を終えていたようだ。宿痾とも云えるクスリのため、だそうだ。ボクはエヴァンスのピアノとマイルス周辺は「水と油」だと思う。だから、水が油に溶ける瞬間を捉えたこのアルバムが名作中の名作となった所以だと思う。
2. Bill Evans Trio on Riverside (1956-1963)
ここから先はレコーディングやマスタリングの技術者も記載したい。Blue NoteのVan Gelderみたいな統一的な録音技師はいないので、そこをもう少し調べたいと思っている。
(2) New Jazz Conceptions (1956)
first second
Bill Evans(p), Teddy Kotick (b), Paul Motian (ds)
Jack Higgins (recording), Tamaki Beck(mastering)
27歳での遅いリーダ作。ボクが持っているのはセカンド・プレスのジャケット。格好悪いから安い。まだスタイルが確立されていない、と云われるが、ピアノの響きは彼そのもの、のように思える。「響き」に気持ちが行くようになったのは、つい最近。改めてエヴァンスに引き込まれた理由。ドラムのMotianは1963年まで叩いて、その後は1960年代末から1970年代後半まではキース・ジャレットと共演。つい先日亡くなった。ボクは2000年過ぎにヴィレッジヴァンガードでモチアンのバンドを聴いた。そのとき、そのバンドも音はあまり耳に入らず、ただただモチアンに眼が耳が向き、そしてこの場所でエヴァンスと共演した彼を見続けていた。
(3)Everybody Digs Bill Evans (1958)
Bill Evans(p), Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)
Jack Higgins (recording), Tamaki Beck(mastering)
このアルバムはマイルスとの共演時代の吹き込み。黒人奏者との共演だけど、そんなに違和感はない。構成が素晴らしく、ところどころ入るソロが際だって美しい。
(4)Portrait in Jazz (1959)
Bill Evans(p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (d)
Jack Higgins (recording), Jack Matthews(mastering)
(5)Explorations (1961)
Bill Evans(p), Scott LaFaro(b), Paul Motian(ds)
Bill Stoddard (recording), Jack Matthews(mastering)
あのラファロを含めたトリオが登場。揺るぎないエヴァンスの音が固まっている。3者のインタープレイを中心に、その素晴らしさが語られるが、このアルバムを聴いてボクはあまりラファロに魅力は感じていない。何故だろうか。
(6)Sunday at the Village Vanguard(1961)
(7)Waltz for Debby(1961)
Bill Evans(p), Scott LaFaro(b), Paul Motian(ds)
Dave Jones(recording), Plaza Studio(mastering)
1961年6月に2週間に渡って、「あの」トリオの演奏がマンハッタンのヴィレッジヴァンガードで行われた。今もあるヴィレッジヴァンガードは新宿ピットインとあまり雰囲気は変わらなくて、客は生真面目に集中している。しかし、このレコードを聴いていると、ふっと前時代のジャズクラブの空気、とてもリラックスした、が流れてくる。グラスの音、笑い声、ヒトが通り抜ける空気のようなもの。その中で、世紀の演奏が紡がれている。静かにはじまり、静かに燃え、そして静かに終える。この後、ラファロは交通事故でこの世を去る。僅か4枚のレコードしか残せなかった、故に愛おしく、また儚さが際だつバンドになった。
(8) Moon Beams(1962)
(9) How My Heart Sings!(1962)
Bill Evans(p), Chuck Israels (b), Paul Motian (ds)
Bill Schwartau(recoding)
ラファロの死後、暫し空白の時期が続く。新たにチャック・イスラエルが後任に。ボクは案外この時期のアルバムが好きで、あまりベースの音に邪魔されずエヴァンスのピアノが楽しめる。How My Heart Sings!の響きは甘く、惹き込まれる。Moon Beamsのジャケットはモデルのニコ。その後、ルウ・リードとレコードを出している。
(10) At Shelly's Manne-Hole (1963)
Bill Evans(p),Chuck Israels (b), Larry Bunker (ds)
この頃にはモチアンが離れ、エヴァンス自身もVerveからレコードを出しはじめる時期。この盤はあまり印象がなかった。
3. Epilogue
(11) Affunity (1979, WB)
Bill Evans(p), Marc Johnson(b), Eliot Zigmund(ds), Toots Thielemans(harm), Larry Schneider(ts,ss)
ビル・エヴァンスはトリオ、という固定的なイメージは強い。確かにRiverside期の吹き込みはトリオが良いと思う。管が入ると異質感が強い。しかし、晩年の吹き込みを聴くと、トリオの空気感そのままで管が入ったような楽しさ、がある。これはシールマンスのハーモニカが楽しい。実はジャズを聴き始めた年に、はじめて手にしたエヴァンスのアルバム。愛着がある。
(12) Kronos Quartet: Music of Bill Evans (1985, Landmark)
All songs are composed by Bill Evans (except A3 by Miles Davis), and arranged by Tom Darter
Kronos Quartet: David Harrington (1st vln), John Sherba (2nd vln), Hank Dutt(viola), Joan Jeanrenaud (cello)
Edie Gomez(b) on side-A, Jim Hall(g) on B2, B3 and B4
エヴァンスの死後、多くのアルバムが彼に捧げられた。そのなかでも、これは白眉じゃなかろうか。弦が彼の音世界を忠実に描き出している。丁度、Riverside期の曲が中心。軽い気持ちで聴いて、随分、引っ張り込まれ気がする。