K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Jaco Pastorius : Jaco Pastorius(1976) 時代の音のなかの摩耗しない部分

 ジャコが撲殺された、という極く短い報道を新聞でみた晩、は今でも覚えている。たまたま友人とレコードを聴いていた。何ともいえない寂寥感だった。1986年のこと。Word of mouthの続作を待っていたが、永遠の徒労だった、ことに気がついたような感覚だった。

 それから数年は堰を切ったように溢れたブートを手にしたりしたのだけど、案外、その音のヴァリエーションは少なく、大半の奏者がそうであるように偉大なマンネリのなかで喘いでいた様子が何となく分かって、離れた。

 だけど、このデビューアルバムあるいはWord of mouthを聴き、フュージョン隆盛という時代の音のなかの摩耗しない部分、が確かに存在している。柔らかいフレットレス・ベースが紡ぐ柔らかいグルーヴ感、が未だに眩しいし、気持が良い。この気持ち良さ、が確かに好きだった筈だ。そして、原色から淡色までの彩りを添えるアレンジの妙。明らかにギル・エヴァンス的な色が流れているWord of mouthと比べると、このデビュー作Jaco Pastoriusは、彼の色彩が多様に溢れ、楽しいものになっている。「フロリダのパンク野郎」なんて云われた彼が、とても音が醸す叙情性に深く惹かれていたことが伝わり、その美しさには参ってしまう。

 そして、このアルバムがWeather report加入前に作られていて、すでにその音世界が固まっていたいたことに驚かされる。そしてWeather report脱退後の音世界も「さほど変わっていない」ことに、彼の天才的な一撃と、悲劇的な発展性のなさも感じてしまう。だから1986年に撲殺されることで、音が孕むcontextに自ら決着をつけた、と思えて仕方がない。

 そんな些末な後知恵を受け付けないほど、ジャズおよびジャズを囲む音楽を純化して溶かし込んだ1976年の美、が確かに存在する音、だと思えて仕方がない。だから第2作を生むところで力尽きたのだ、彼は。

 

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Jaco Pastorius : Jaco Pastorius(1976, Epic)
   1. Donna Lee
   2. Come On, Come Over
   3. Continuum
   4. Kuru/Speak Like a Child
   5. Portrait of Tracy
   6. Opus Pocus
   7. Okonkole Y Trompa
   8. (Used To Be A) Cha-Cha
   9. Forgotten Love
Jaco Pastorius (bass), Herbie Hancock (key), Don Alias (per), Michael Brecker (ts), Randy Brecker (tp), David Sanborn (as), Peter Graves (tb), Ron Tooley (tp), Howard Johnson (bs), Narada Michael Walden (ds), Sam and Dave (vo), etc