K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

鈴木清順:孤愁(1980、北冬書房)美貌ということじゃないが小粋な


 本に惹かれるときがある。それも記述に惹かれるのではない、外装に惹かれるときが。そして眼に映る姿は、美貌ということじゃないが小粋な感じ(カジュアルという言葉では気分が出ない)が良かったりする。

 先日、馴染みのバアの周年記念があり、沢山のヒトが集まった。呑みすぎて、うとうとしていたのだけど、そんなとき知己が眼の前に差し出したのが、この本。ボクがツゴイネルワイゼンにハマっているコトを知っているから。装丁が派手でもなく、だけど手がきちんと入った感じが好ましい。林静一の仕事。何よりも、マニアックな北冬書房ってのがいいじゃないか。

 という訳で早速手に入れた。バカだね。

 頁を開くと、そうツゴイネルワイゼン直後の熱気、そう彼自身の充実した気配が漂っている。撮影場所に関する幾つかの逸話が記載されていて、映画の場面が蘇る。

 あとはエセーなんだけど、映画と一緒で無意味。ただの断片が継がれたような文章なので、それがとても楽しい。何か知や技が蓄積されたような積分的な人柄じゃなくて、瞬間瞬間の精神の変化を捉えるような微分的なヒトなんだ、って感じでね。だから、大正的アナキズムへの憧憬が、その正義感や思想的な確信から出ているのではなく、彼らの躍動感への信頼から生じているような感情。

 そんなことをダラダラ読んでいる時間って、彼の映画と同じで、無駄で無意味。だから少しだけ贅沢な時間の使い方だと思うんだな。それに、なんか美しいコを掌中に手に入れた感覚、も蒐書の楽しみ。早速、出張に連れ歩いている。やっぱり、バカだね。