狂おしいほどの櫻の日々、もようやく下火になってきた。ほとんど10日近く晴れた後、暖かい春の雨、が降っている。今朝は安心してゆっくりと本を読んでから仕事に出た。随分と長い間、気持ちのなかの均衡を崩しながら過ごしているのだけど、僅かばかりの安寧を雨に感じる。
今、仕事場で聴いているのはグラス自作・自演のソロピアノ。カフカの変身(読んだことないけど)が題材、だそうだ。ミニマルそのものの曲なのだけど、とても聴きやすい。グラスによるピアノの響きは純度が高く、またさほど音の温度が低くなく、まさに暖かい春の雨のような感じ。だから厳しさを感じるよりは、音の風景の中に、生きた人の動き、のようなものが伝わる。それでいて、生々しい情感が溢れるような熱さ、もなく、モノクロームの無音映画につけられた曲のようだ。
ゆっくりと光が変わり、大気が流れていく。遠くに急ぐ人影や立ち尽くしたような背中が浮かんでいる。ただ感情薄く、長い時間それを眺めているような音、でも決して無機的なものにならない。
暖かい春の雨の中、盛りを過ぎた枝垂桜を眺めているとき、先週あれだけ気持ちを掴まれたことが遠い過去のように思えた。そんなことを再び反芻するような時間の流れの中で聴く音楽なのだ。
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Philip Glass: Solo Piano (1989, CBS)
1. Metamorphosis One
2. Metamorphosis Two
3. Metamorphosis Three
4. Metamorphosis Four
5. Metamorphosis Five
6. Mad Rush
7. Wichita Sutra Vortex
Philip Glass(p)