K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Billy Hart Quartet @Village Vanguard (June 6, 2014) 低温の熱いドラムが叩き出す音楽


 Blue Noteの1st setのつぎはVillage Vanguardの2nd set。ニューヨーク・ジャズ事情に疎いボクにとってはハシゴが容易な近所なので助かる。しかも、最近、ECMで快調なビリー・ハートである。メルドーで少しコケた感があったので、期待が高まるが、実はそれ程聴き込んでいないし、そもそも存在が希薄だったので、最近の活躍に驚いていたのだ。

 結論から云うと、大当たり。熱気を帯びない、しかし一定以上の緊張感から離さない、ちょっと不思議な素晴らしい時間を過ごした。

 開演前、ステージ前の席に冴えない小柄な老人が座って、客と喋りはじめた。精彩がなく、眼も鈍い。ジャズ・クラブの客層とは明らかに違う。ひょとして、と思ったが、いくら何でも、思った。

 やはり、その彼がビリー・ハート。ドラム・セットの前に座った瞬間に精悍な顔付きとなった74歳。ボクの記憶では、ハービー・ハンコックのWB時代のドラマー。時折、名前は出るが、あまり印象は強くない。ここ数年ECMからアルバムが出ているのを知って驚いた。1枚持っていたと思うが、実はあまり聴いていない。

 ECM的な静謐な曲からはじまる。ビリー・ハートって、MJQのコニー・ケイみたいな室内楽的なドラムを叩くな、って思った。マーク・ターナーも実に抑制的。イヴァーソンのピアノは欧州的な音の響きに満ちていて、そう確かにECMだよな、ってはじまり。まあ予定調和のなか。

 その後、予熱が終わったようで、リーダーとしてのビリー・ハートの凄さを実感した。アフリカ的なポリリズム、そしてリズムからリズムへの切り換えが細分されていて、予断を許さない。リズムのみならず、メロディまで先導するように唄う打楽器。音は沸点まで上がるように高いが、音の温度そのものは変わらず低い。叩き手の振動が聴き手の内面に直接届いて、プリミティブな愉悦を与え続ける。マーク・ターナーも低い温度の咆吼を続けている。その音の隙間をピアノとベースが綺麗に埋めていく。ライヴという環境がECMという「作られた環境」の虚飾を剥ぎ、躍動感のあるリズムをパルスのように叩き出す。凄い。

 予定調和のように、感情を昂ぶらせるようなこともなく、それでいて凄く緻密にグループ表現を行っていく。多分、録音で「軽く」聴くと「軽く」聴こえる、と思う。だけど実は凄い、という最近のジャズの王道じゃないかなあ、と思った次第。

 それにしてもニュー・ヨークはラテン系観光客で一杯だった。なぜだろう? Village Vanguardでは目の前はブエノス・アイレスからの観光客。初老の夫婦だけど熱い。冷たく燃えるビリー・ハートを余所に愛を確認し合っている。やれやれ。

 聴き終わった後には、心地よい疲労感で一杯。夜半前の外気は、まだ夏がはじまったばかりなので冷たいのだけど、いったん火ががついてしまった気持を沈めるためには足りない。まだまだアルコールが必要なので、そのあと暫しバーで時間を過ごしてしまった。
 
BILLY HART QUARTET
Billy Hart(ds), Mark Turner(ts), Ethan Iverson(p), Ben Street(b)
Village Vanguard (the second set, June 6, 2014)