K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Don Cherry: Art Deco (1988) 一枚のアルバムから広がること

 随分と前からCDは持っていたのだけど、先日の音盤祭でLPレコードを入手した。そんな訳で何年か振りに聴き直した。それが存外に良かった。演奏は勿論、レコードで聴いたときの音の良さ、には驚いた。

 ドン・チェリーのトランペットは飄々と軽く、フリー・ジャズと云いながら形や既成概念をするっと抜ける脱力感が凄い。マイルスが力強く、焦点を定めて前身するならば、ドン・チェリーは力そのものを消していき、そしてその向かう先、のような概念すら発散させ、空間そのものと同化していくような力がある。

 このアルバムはまさにそのようなチェリーの魅力の固まり。その後ろで刻むのはヘイデンンとヒギンズ。チェリーのそのような散っていくような心象を淡々と広げていくような感じ。そのヘイデンのベースが素晴らしい低音で響く。何者でもない、彼らしか作り得ない空間が出来上がっている。

 それにしても、このメンバーはコルトレーンとのアルバム「アヴァンギャルド」を見事に彷彿とさせる。こちらも聴きなおすと、Art Decoの30年近く前のアルバムだけど、チェリーとヘイデンが作る音空間が全く揺るぎのないものであることが分かる。凄いなあ。コールマンもそうだけど、破壊衝動で音を作っているのではなくて、奇妙な快感や変なグルーヴ感を出そうとして既存の枠からはみ出したような、自然な音なのだ。今にして思えば。。

 先ほど、音の良さについて触れた。録音はニュー・ジャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオ。ソニーのPCM録音機を使ったディジタル・マスター。レコードからCDに急激に変化していた頃である。1970年代に入って、ヴァン・ゲルダーの録音も埋没感があるのだけど、これはごく自然な録音で、彼らの音を素晴らしい定位感で聴かせてくれる。

 それに加え、このアルバムのプロデュースは自主レーヴェルのArtist House(良質のアルバムが多かった、早々に止めちゃったけど)のジョン・シュナイダー。驚いた。

 一枚のアルバムから広がることが、こんなに沢山あるとは思わなかった。

 

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Don Cherry: Art Deco (A&M, 1988)
   A1. Art Deco
   A2. When Will The Blues Leave
   A3. Body And Soul
   A4. Bemsha Swing
   B1. Maffy
   B2. Folk Medley
   B3. The Blessing
   B4. Passing
   B5. I've Grown Accustomed To Your Face
   B6. Compute
Don Cherry(tp), James Clay(ts), Charlie Haden(b), Billy Higgins(ds)