K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

短い春の匂い


 ある日、暖かい大気の流れを感じた。春が来た、ように感じた。

 関東や関西ではお彼岸の頃に感じる「あの感じ」が、ここでは一月遅れ。だから、桜の頃は肌寒く、緩い大気の中で酔うような夜桜は楽しめない。その代わり、染井吉野でない桜が沢山あるここでは、4月のお仕舞いくらいまで、桜を眺めることができる。残雪が今なお残る山間に行けば、ようやく咲き始めている、場所もある。

 その夜、少し歩いた。兼六園のまわりは緩い風に乗って、花の匂い、のようなものが流れ、不思議な感覚を煽っていた。新月からほんの少しだけ経った月が、鋭く光っていた。こんな春の夜は僅かしかない。すぐ初夏の雰囲気に変わってしまう。

 そしてボクは暁の頃に、独り小さな渓に立っている。ようやく活性化した岩魚たちに遊んでもらっている。短い春の感触のようなものを、指先に感じている。