K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

雨の朝

 新しい職場で仕事をすることになり、電車に乗る。すでに始業時間に間に合わないことが分かっていて焦る、が仕方がない。満員の福知山線で北上する。幸い座ることができて、居眠りをしていた。武田尾のトンネルを過ぎて、目覚めると誰もいない。空っぽの電車のなか。慌てて、下車しようとすると靴を履いていない。居眠りしながら脱いだようだ。車内を探す。片方の靴をみつけたが、随分傷んでいて先が開いている。プラットホームに出て探す。乗ってきた電車は回送電車になる。駅員に相談して探すが、もう片方が見つからない。出発しようとする回送電車を止めてもらい、再び手分けして車内を探す。やはりぼろぼろになった、もう片方が見つかる。履いてみると違和感がある。ソールを見ると、違う靴だと分かる。いずれにしても、出勤に耐えられる靴ではない。駅前で求めようと思った。

 随分、遅い時間に新しい職場の門の前に着いた。そこで親しげに話をする男、記憶にない、に連れられて歩く。そして、職場ではなく工場の構内にある会食の施設に連れて行かれる。もう昼食の頃なのか一杯。個室の前には、予約のグループ名が書いてあるが、ボクの名前はない。男は予約したのですか、とボクに聞いた。ボクは、いいえ、と云った。男は急に怒り出して、なぜこの場所に来たのですか、と責める。あなたが勝手に連れてきた、と反論したかったが、新しい職場の初日。波風を立てたくなかったので、誤解を与えて済まなかった、と誤った。とても寂しい気分になった。

 工場のなかの古い木造の建物のなか、廊下を歩く。突き当たりの部屋に入った。新しい職場だ。険しい視線で見られる。ボクの上司となる、らしい、男が怒り出す。来る時間が遅いこと、そもそも海外に良く出かけたり気儘な会社生活を送ってきたに違いないこと、などなど。ボクは天井に一点を見つめ、なぜ、このような場所、状況になっているか理解できず、ただただ寂しい気持ちでいた。

 そして雨が窓を打つ音で目覚めた。メーカの技術者であったこと、の気持ちの残照のようなものが投影されたフィルムを見たようで、気分が悪かった。メーカーに戻り、活躍できる年齢はとうに過ぎているのだ。

 久しぶりにレコードを鳴らしてみる。キース・ジャレットのケルン・コンサートのオリジナル盤。このアルバムはボクのなかで基準となっている。聴いていると、打鍵が強くなったときの歪みが気になって、カートリッジを換えたり、針圧を触ったり。1時間ほど触っていたらすっきり。

 本当に久しぶりに、じっくりと。あの夢の翳りが消えるまで。