K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

富樫雅彦、高橋悠治:Twilight (1976) 胡志明という人物の漢詩を題材に

 昨日届いたLPレコード。当時、デンオン(デノンじゃない)と呼ばれたレーベルのアルバムは音が綺麗

 胡志明という人物、がいた。1969年に逝去している。胡という名前から、西域に起源をもつ漢人かとも思えるがそうでない。越南人である。カタカナで書くと、ホー・チ・ミンである。日本と同様、あるいは日本以上に強い中華文化の伝統のもとにあるベトナム。フエの宮廷を見たとき、まさに小さな故宮であり、彼らの複雑な関係を改めて認識した。そのホー・チ・ミンが書いた漢詩「黄昏」、がアルバムのネタになっている。毛沢東も詩人であったが、ホー・チ・ミンもそのようだ。

 1975年、ホー・チ・ミンの没後6年、サイゴン陥落をもってヴェトナム戦争終結した。ジュネーブ協定により「現地化」した後の、南政府の崩壊は急速であった。ズオン・バン・ミン将軍が静かに迎えたサイゴン最後の日、の記録を新聞で読んだときは、感慨深いものであった。物心ついた頃からヴェトナムは激しい戦争の地であり、反モラル的な大国の振る舞いに怒りを感じていた、からだ。当時の日本で革新系の自治体首長が多く誕生したのも、そのような反米、反資本主義的な思潮の延長であったと思う。その僅か4分の1世紀前に我が国がそのような大国(猪木正道氏の云う夜郎自大な大国意識の暴走、という意味で)であったことは棚に上げて、被害者意識と反米意識を混ぜたようなものが渦巻いている、と(子供ながら)思った。

 それはともかく、そのような時代思潮のもとで、ホー・チ・ミン漢詩「黄昏」(すなわちTwilight)を朗読したときの音を触媒に演奏されたのがB面である。シンセサイザと打楽器による演奏はしなやかで、南国の喧噪よりも、黄昏時の南国の静謐な空気を伝えるような演奏。シンセサイザによる音も(多くのシンセサイザ初期の演奏が古さ、を感じさせるなかで)、全く鮮度を失っておらず、とても自然な環境音のような役割を果たしている。

 A面は、ある程度の約束ごとを決めたうえでの緩やかな即興。これもまた、実に美しいピアノよ打楽器の応酬。全般的には、現代音楽とFree Jazzが美しく止揚された記録、であると思う。未だ、色褪せていない。

 さて、この録音から僅か2年後に中越戦争が起こっている。平和勢力と自称していた国内の社会主義勢力の自壊の契機となった。また華国峰が失脚し�搶ャ平の時代となった頃、文化大革命実相人間性の抑圧、が知られるようになる。ヘイデンが毛沢東へ捧げる曲を奏でたり、富樫雅彦ホーチミンを題材にした曲で叩いたり、そんな安全地帯での「はやり」の最後の瞬間をとらえたアルバム、でもある、としみじみ思ってしまった。

 ボク自身は左翼思想には全く馴染めないのであるが(善意による多様性の封殺がコワイから)、健全な左翼勢力も必要な昨今だなあ、と40年前のアルバムをみて思ってしまった。(21世紀のサヨクもウヨクも、およそ寛容性がなく、同調圧力が強いように見えるのでね)

音楽のことを書いているのだか、何だかなあ、になってしまったけど。

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富樫雅彦高橋悠治:Twilight (1976, Denon)
A1.半明 Dawn(Masahiko Togashi) 16:03
A2. 礼魂 Lĭ-Hún(Masahiko Togashi) 4:30
B. 黄昏 Twilight(Yuji Takahashi) 22:08
富樫雅彦(perc)、高橋悠治(p on A, synth on B), 豊住芳三郎 (perc on A2), 坂本龍一(p on A2, synth on B), 高橋ゆうじ(synth on B)
Cover Design: Satoshi Saitoh, Yasushi Nakamura
Photograph: Tadayuki Naitoh
Mix, Remix: Masao Hayashi
Producer: Tsutomu Ueno, Yoshiharu Kawaguchi
Recorded in 9/10 June 1976 at Nippon Columbia Studio No.1, Tokyo