K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

富樫雅彦:Spiritual Moments (1981)録音の良さ、演奏の良さ、と裏腹に

  昨日書いたが、アナログ末期のレコードの良さ、には堪らないものがある。針を下ろすと、音空間が眼前に現れ、第一音がはじまるまでの微かなトレース音にどきどきする。そして、強い音圧、鮮やかな色彩感、そして奏者との近い距離、を堪能できる録音が多い。昨日の記事にルネ氏がコメントされたように、当時のキングレコードの録音は、盤質の良さもあり、素晴らしいものが多い。

 そして本盤をはじめとする富樫雅彦の録音では、彼の繊細かつ深い打楽器が楽しめることは勿論、様々な共演者のリアルな音を楽しむことができる。本盤も、スティーヴ・レイシー、ケント・カーターとくれば、期待に違わない、精緻な音空間をかっちりと楽しませてくれる。素晴らしい。

  だけど何だろう、録音の良さ、演奏の良さ、と裏腹に、何かが足りない。完成度の高さ、すなわち耳に入ってくる時点で音が緻密に組み立てられていること、が何かを損なっているのを感じるのだ。この感覚は、デレク・ベイリーを聴いてから、強く感じるようになっている。

 つまり、音の断片あるいは微係数のようなものを聴き、それを積分しながら元の音の関数を復元するような面白さ、をimprovised musicに感じているから。そして、積分がそうであるように、自分で境界値を与えないと関数の復元は完結しない、入力された音はその要素に過ぎない。自分が音空間造り(あくまで自分のなかでの)の役割を担っている、感覚が楽しいのだ。

 多分にこのような感覚が惹起されるのは、スティーヴ・レイシーの演奏の特性ではないかと思う。かなり自己完結した音であり、そこから何らかの意識を喚起する部分が少ないように思えるのだけど、どうであろうか。まあ今日の気分、ではそのようにきこえた、ということなのだけど。

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富樫雅彦:Spiritual Moments (1981, Paddle Wheel )
A1. It's Freedom Life
A2. The Window
B1. Poem in the Shadow
B2. Steps
B3. The Crust
富樫雅彦(perc), Steve Lacy(ss), Kent Carter(b)
Digitally recorded October 15th & 16th, 1981