K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM2364) Miroslav Vitous: Music Of Weather Report (2010,11) そして今度のWRは

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 ヴィトウスのWRシリーズ第二弾(か?)。CDがリリースされてから、安価な海外業者からの出荷を待ったので、入手はいつものように遅い。前回、WRカヴァー集を想定し、あまりの見込み違いに驚いたが、今度はどうだろうか。

 前作はWRの当初のアイデア(奏者間の即興)の発展に比重を置いたが故に、WRを想起させる部分はほとんどなかった。奏者間が等価な存在として会話を試みる、という趣旨、つまりWeather reportの原点の思想をさらに進める、なので、結果としては即興的な硬派な部分が主体のアルバムになっている。結果として縦横無尽なヴィトウスが愉しめるのだけど、weather reportの名前が喚起する聴き手のイメエジが大きすぎ、訳が分からないこと、になっていた。

  結論から云うと、このアルバムはWeather Reportのカヴァー集として捉えてもいいかな、という部分も多く、前作とかなり趣旨が違う。

  1. Scarlet Woman Variations: Mysterious Travellerから
  2. Seventh Arrow: weather reportから
  3. Multi Dimension Blues 2: 新作
  4. Birdland Variations: Heavy weatherから
  5. Multi Dimension Blues 1 : 新作
  6. Pinocchio : Mr.Goneから(もとはMilesのNefertiti)
  7. Acrobat Issues  : 新作
  8. Scarlet Reflections (M.Vitous): 1の編曲?
  9. Multi Dimension Blues 3  : 新作
  10. Morning Lake (M.Vitous: )weather reportから4

 驚いたことに、Vitousの曲でないもの、更にはJacoの時代のWRの曲まで取り上げ、Vitousの考えでの曲調に仕立て直されている。前作同様、ヴィトウスのベースを存分に楽しめる。で、奏者間の即興的な要素は弱めに設定されている、と思う。それが、全体としてはWR的な雰囲気をつくっている。

 このアルバムと並行して、ヴィトウス時代のWRを聴いたのだけど、やはり凄い。一般的な人気を獲得するためにWRが変遷したことは仕方がないのだけど、あの「高み」に結成した当初に到達していた、という事実を改めて認識。後年のWRよりも、ジャズとしての魅力、未来性に溢れていたことは間違いない。

 

 そして、今の時代、21世紀のジャズに向けて、ひとつの原点として改めて提示するというヴィトウスの意図、は本作で成功している、と思う。決して、オマージュでも回顧でもない。未来志向だと感じる。今回のアルバムでは前作のようなヴィトウスによるライナーは記載されていない。それも自信の表れ、ではないか。前作はライナーがないと、意図が伝わらなかった、からだ。

 そのような場を提供したアイヒャーも素晴らしい。1970年代のECMを彷彿とさせるアルバムではないか。ちなみに本作も前作同様、プロデュース・録音はヴィトウス自身であり、ECMのアルバムとして十分、水準を超えている。

追記:

機会があれば、1971年夏のWR欧州ツアーでの録音を聴いて欲しい。1月の東京公演よりもグループ表現は進化し、美しさと激しい即興の両立という点で、異常な高みにあると思う。ザヴィヌルのキーボードが冴えまくっている。先般のジャコ・アースキン時代のアルバムはライヴならでは熱気には感心したが、ザヴィヌルのシンセサイザが時代とともに劣化していると感じたのだけど、どうだろうか。

 

参考記事:

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(ECM2364) Miroslav Vitous: Music Of Weather Report (2010,11)
1. Scarlet Woman Variations (A.Johnson, J.Zawinul, M.Vitous, W.Shorter) 5:59
2. Seventh Arrow (M.Vitous) 6:42
3. Multi Dimension Blues 2 (M.Vitous) 1:30
4. Birdland Variations (J.Zawinul, M.Vitous) 9:58
5. Multi Dimension Blues 1 (M.Vitous) 2:05
6. Pinocchio (W.Shorter) 6:34
7. Acrobat Issues (M.Vitous) 5:32
8. Scarlet Reflections (M.Vitous) 2:46
9. Multi Dimension Blues 3 (M.Vitous) 4:55
10. Morning Lake (M.Vitous) 6:44
Miroslav Vitous (b. key), Gary Campbell, Roberto Bonisolo(ts,ss), Aydin Esen(key), Gerald Cleaver, Nasheet Waits(ds)
Producer [Recording Producer], Engineer: Miroslav Vitous
Design: Sascha Kleis
Engineer [Assistant Engineer]: Andrea Luciano
Executive-Producer: Manfred Eicher
Released: 10 Jun 2016
Recorded on March and May 2010, February and March 2011
at Universal Syncopations Studios