K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

翠川敬基: 緑色革命/Grüne Revolution (1976) 弦のキシミ

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 その昔(って云っても35年前)、日本コロンビアから出ていた富樫雅彦の録音がお気に入りだった時期があり、富樫の打楽器とともに、翠川敬基のベース・チェロも好きだった。富樫も翠川も、音を重ねるときよりは、音を間引いて出来た空間の余韻を美しく響かせる、と思ったからだ。その意味では、佐藤允彦は音を足していく奏者、の印象があって、少々煩いと思った。

 このレコードを聴いて、当時、そんな印象を持ったことを鮮明に思い出した。そして、このレコードのお目当てである高柳昌行は、見事に音を引いたときの美しさ、を出しているように思う。この人の柔軟さ、引き出しの多さ、には驚いてしまう。著書で感じる生硬さ、と対極である:

 高柳のギターと翠川のチェロ、二台の弦楽器で音を出しているのだけど、二人で音を足して前に出て行くような感覚でなく、引きながら下がっていくような不思議な感覚。ブラックホールの吸い込まれていくようなエネルギーを見るような、である。だから、抜き取った後のパズルのような残骸が、音の全体像を掴もうとする聴き手の想像力を喚起するような感じ。ただディレク・ベイリーのような微分的な時間的な遷移の激しい音、でもないので、ウネウネとした音の行方を、弦のキシミのなかで感じるのは楽しい。

 佐藤允彦とのデュオでは、饒舌という名の暴力的な演奏に対し、淡々とベースを流していく演奏。嫌いでも、悪くもないのだけど、ちょっと印象は薄い。

 驚くべきことに、後年、このコンサート(故副島プロデュースのインスピレーション&パワー2)の残りの演奏、富樫雅彦と翠川敬基のデュオがCDに収録されている。まさに二人で音空間をつくる、静謐で饒舌な世界。相性がいいなあ、と唸る。ボクがかつて好きだった1970年代中盤の富樫雅彦グループの音世界が、そこにライヴとして収録されているのだ。豊穣な音空間、音で埋め尽くされない故の深さを感じる、を堪能することができた。

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翠川敬基: 緑色革命/Grüne Revolution (1976, offbeat)
A 翠川・高柳 デュオ :くわの木より生まれ出づる姫に
An Die Prinzessin Die Aus Dem Maulbeerbaum Geboren Wurde
B. 翠川・佐藤 デュオ: マタロパッチの戦い
Der Todeskampf Am Maderospatsch
翠川敬基(cello, b), 佐藤允彦(p), 高柳昌行(g)
録音:1976年1月16日 日仏会館
(インスピレーション&パワー第4日目「名状不可能」より)

CD完全盤では、これらに加え
1. 翠川・富樫 デュオ: スミナガシ
Dichorragia Nesimachus
翠川敬基(b), 富樫雅彦(perc)

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