K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

蓮見令麻: Utazata (2013) 浮遊の形そしてimprovisation

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 NY在住のピアニスト。Jazz TokyoのサイトでNYのジャズ事情をレポートを掲載中。でも、あのサイトの字が小さかったので、読み辛く読んでいなかった(サイトが新しくなって、読み易くなっていますね!)。

ニューヨーク:変容するジャズのいま – JazzTokyo

 だから、彼女がどのような視点の、どのような演奏をするのか、全く予備知識なし。白紙、で聴いた。彼女が主宰するレーベルRuwehのサイトで、$10でダウンロードできることが分かったので、Sergio Krakowskiのアルバムと一緒に購入。

 ここ数日、かなり聴いている。浮遊系のジャズ、の形態をとっている。熱くない、のだけどECMほどは冷たくない。同じレーベルのSergio Krakowskiのアルバムと同じように、録音は良く、残響を効かせすぎず、とても柔らかな音場を作っている。彼女のピアノも音の寡黙さ、は亡き菊地雅章を想起させるが、打鍵の柔らかさが決定的な違い、になっている。

 空間に漂うような音がゆったりと流れていて、気持ちよい。このような浮遊する音で決定的に大切なのは「芯」だと思う。以前、リー・コニッツ、ビル・フリーゼルのライヴをマンハッタンのBlue Noteで聴いたが浮遊系。昔、ボストンで聴いたフリーゼルのバンドは「芯」がなく、ライヴで聴いていても軟体動物のようで、掴みどころがない感じで苦手、だった。だからコニッツとの演奏でも危惧したのだけど、救われた、のはゲイリー・ピーコックのベース。ドシンと打ち下ろす音が「芯」となって、音の座標のようなものを与えていた。このアルバムではトーマス・モーガン。とても存在感がある。

 あとタイトル、曲名を見ると、和モノのような印象を受けるが、そうではない。奏者の出自たる日本の音は起点として設定されているが、これも柔らかな通奏低音のような印象。危惧した武満の「ノヴェンバー・ステップ」的なオリエンタリズムの喚起、ではない(あれは苦手)。

 演奏はimprovisation、ということなのだけど、improvisationということは聴き手に意味があることなのだろうか。弾き手の作曲手法としては分かるけど。記譜されていたとしてもおかしくない、よくできた曲じゃないかな、と思う。improvisationによる熱狂とかトランスのような世界とは無縁の演奏。静謐で音と音の間に透明な空間が無限に続くような、そのような寡黙で緻密な音世界にように思えるから。

 

Ruwehのサイト($10でDL可能)

Rema Hasumi - UTAZATA

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蓮見令麻: Utazata (2013, Ruweh)
1. Azuma Asobi
2. Goeika
3. Clouds Toward East Turning Madder
4. Chikuzen Imayou
5. Wind That Divides The Meadow
6. Moon Dissolves Into A Spring Dawn
7. Lullaby of Takeda
蓮見令麻 (p, voice on 1, 4, and 7), Todd Neufeld (g), Thomas Morgan(b), Billy Mintz(ds), Ben Gerstein (tb on 1, 3, and 6) , Sergio Krakowski(pandeiro on 1, adufo, mbira on 7)
Recorded December 2013 at Oktaven Audio
Engineered and Mixed by Ryan Streber at Oktaven Audio
Mastered by Luis Bacque