K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

山出保:金沢らしさとは何か (2015) 専門職の矜持

 小松空港には小さな本屋がある。そこには地方出版社の本が沢山あって、旅行者に提供している。ボクはそこを眺めるのが好きで、時々、気になる本を入手する。他の街に行ったときもそうだ。

 何ヶ月か前に入手した本が、山出 元金沢市長を囲む座談会の記録。実に面白かった。ボクは、岩波新書での金沢本で元市長のことを知ったような新しい住人なのだけど、読みどころが多かった。

金沢らしさとは何か ―まちの個性を磨くためのトークセッション

金沢らしさとは何か ―まちの個性を磨くためのトークセッション

 

・明確な都市像を描いたときに、不動産を代表とする財産権との相克を如何に解決し、現実的な解として落とし込むか。市町村という最末端の行政組織のなかの限られた手段で、法規制のみならず検討会議のような強制力のない仕組みで市民のコンセンサスまで持って行く手法が述べられている。改めて複雑な権利関係のなかでそれらを「実現する」行政官の在り方を知った。

・金沢という街への疑問は、中心地の空洞化に尽きる。県庁のような行政組織、教育機関の郊外移転の行き過ぎ、が人口減少局面で、中心地に対しかなり厳しい状況をつくるのだろうと思う。そのような感覚に対し、十分理解し得る経緯、問題意識が述べられていた。徳田市長時代の60万人構想などなど。郊外地域の在り方を含め、この問題に対する仕事はこれからの行政の課題ではあろうが、喫緊の課題としてのヴィジョンは現金沢市行政で持っているのか、知りたくなった。

・金沢らしさ、の議論については、一家言ある方々が考えればいいと思うし、そのような人は地元、転入者双方に沢山いるだろう。そのようなカオスのヴェクトルを現実の形に持って行く「優秀な専門職」の重要性を改めて知った次第。当たり前のことだけど、そのような人的基盤こそが都市の財産であろう。金沢が幸運であったのは、そのような矜持を持った専門職が存在した、ということだろう。

・ボク自身は、古くからの寺院・城郭や、ハコモノの施設には興味はない。そうではなくて、金沢で感じられる、戦争で焼けなかった日本の街並みの風情の美しさに心惹かれている。細い路地や朽ちかけた建物とか、それが都市機能的には負の存在なのだろう、と思う。そういった言葉や価値で表しにくいもの、中心地と郊外の狭間で眠っているもの、には、この本で語られている世界から漏れている、ように思えた。

・[本とは関係ないが]そのような公的な専門職に対し、一定の第三者評価は必要であることは云うまでもないが、(あらゆるものに対する)否定的評価を積み上げるような昨今の風潮はまずいのではないか、と感じる。行政の人的毀損をもたらすだろうし、何よりも「未来を創る」という機能を損なうのではないか。東京のドタバタを見ていて、なんかボンヤリとそんなことを思っている。

・釣りの大師匠が出られていて、身近な本で楽しかった。皆様、お疲れ様でした。