K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

つげ義春全集(1993年、筑摩書房)ゐきているつげ義春

 はじめて読んだのは1984年頃だったように思う。ねじ式を読んで、くらっときた。脳内記憶では、ツゴイネルワイゼンと同じようなアドレスに刻まれている。当時、網羅的に彼の作品を読むことは難しく、初期の作品は入手難の北冬書房の全集を僅かに入手して読んだ記憶がある。今はオークションで、入手は難しくないかもしれないが。

 また、当時は「COMICばく」という季刊誌で定期的に執筆していたのも驚きをもって受け止められていて、それなりの存在感があった、と思う。

 1980年代中頃には執筆は途絶えた。その暫く後、1990年代のはじめに、この単行本の全集が出て、かなり網羅的に収録されたことを知った。先日、案外安価なことを知って入手。絵は稚拙であるが、初期の作品の素朴な虚無感が案外、味わい深い。昭和30年代の庶民の世界の苦境が迫ってくる。決して声高ではないが、生活への叫び、が妙にリアルだ。貸本時代にあまり売れなかった理由も納得できる。そこから、ガロの時代への軌跡が作品を追っていくと鮮やかに浮かぶ。

 神経症のためか、ガロ以降は、幾つかの精力的な執筆期間に分かれるが、それぞれの時代に書かれる私小説的な侘びしさ、が魅力。初めて読んでから30年を越えるが、不思議なほど飽きない。

 しかし、何よりも不思議なのは、今もゐきているつげ義春。1970年代の不安神経症の日記の執筆者、とは思えないのだ。若い当時ですら、消え入りそうだったのだから。

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