どうも、親中とか嫌中のような視点での中国議論が多く、鼻につく。鬼畜米英のスローガンと五十歩百歩の意識が未だ闊歩しているので、辟易する。なぜ好き嫌いで語るのか、そこに幼児性を感じる。
冷徹に隣国を観察し、呑み込まれない距離を維持し、是々非々で付き合う。協力と対立が交叉するような関係、が本来の隣国との関係ではなかろうか。その点、中国は自国利益に対し、感情を排した合理的な対応を取るなあ、とアッパレに見えるのは、気のせいだろうか?(鳩山政権が日米と日中の距離見直しに動いた瞬間、尖閣問題も動いたのは象徴的だ)
そのような中国に対する「勝手な感情」を排し、中国の経済、政治に関する著作を出しているのが著者の津上氏で、実に視点がクリアで面白いし、何よりも親中・嫌中のような気持ちの悪い視点がない。リアルな中国を語る本。いつ中国のバブルが崩壊するのか、という関心で数年前からフォローしているが、ダッチロールしながらも墜ちないのね、と読んでいて思った。
加えて党大会に向けた習体制の歴史的な意味を示唆していて、これも面白い。大国中国の統治の問題を、彼らの問題意識を推定しながら述べており、興味深い。
結局、中国を語るという仕事は日本を語るに等しい。これは聖徳太子が煬帝に出した親書が描き出している構図と変わらない、また網野善彦が看破したように「日本」という国号自体も中国からの方角なのである。改めて、冷静にこれからの日本という国を考えるツールとなり得る本、だと思う。