K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

鈴木清順の孤愁、彼の話

いつだったか、あのバーの片隅に置いてあった綺麗な、和風の装丁の本が気になった。

母校の不肖の先輩でもあった彼に聞くと、嬉しそうに、というよりは得意顔で鈴木清順の、その本を教えてくれた。丁度、ツゴイネルワイゼンの撮影後の本。映画と同じ脈略がなくて、ただただ匂い袋のような本。

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あの映画でほぼ映像に満足していたボクは、すぐ入手したが、いつものように積んでただけだ。もう10年くらい前のことだ。今となっては、あの彼も彼らしく、忙しない様子で向こう側へ渡った。本当は清順のように長生きして、若い女といつも一緒に居たかった、に違いないのだけど。

最近になって、レコード棚の増設で、寝室に小さな本棚を移した。そこに、この本も置いて、夜明け前に目覚めた時に眺めたりしている。そうすると、夢と現の間の時間に暫し浸ることができる。

思い出した。あれは出勤途上だったか。仕事鞄を持って歩いていたら、彼のヴォルヴォに乗せられた。何故か後部座席にちょこんと座っていた。何処に行こうとしたのか、思い出せないが。少し走ったところで、交差点で止まった。前のクルマがバックで戻ってきた。仕方なく、彼のクルマもバック。あまりに勢いが良いので心配になって振り返ると、道が空いていたので安心した。クルマはバックで加速していく。不安になって、彼に聞いてみる。元の場所に戻るから大丈夫、だという。後進の加速度を感じるが、何処かには進んでいるようだ。細い路地に入る。まるで大正期の家屋が並ぶような場所。キミの家だから降りて、と云われて降りた。古い醸造所のような建物の前の駐車スペースに立っていた。クルマから仕事鞄を取り出すと、彼は走り去った。知らない場所で不安になった。しかも、クルマに乗っている間、彼の声は聞いたが、顔を見ていなかったことに気がついた。

彼だった、のだろうか。49日前にも出て来たが、その時は場末感があるショッピングモールで開いたバールを見せてもらった。子供が騒いでいるような場所のバールは行かないよなあ、と思った。今朝もまた、こちら側が気になった、のだろうか。