読んだ本を少しアップ。
戦後70年を越え、もはや数少ない南京攻略戦での従軍兵への聞き取りを中心にまとめた本。新事実がある訳でなく、従来から知られていた捕虜の惨殺について書かれている。元兵士の日記や証言を丁寧に追った点が、もともとTVのドキュメンタリーとして行われた調査の雰囲気を良く伝える。
衝撃的なのは、その内容ではない。歴史的事実として否定しようのない事象に対し、このようなプリミティブな内容の本を必要とする状況である。
宣戦布告を伴わない「事変」のなか、兵站を無視した戦線の拡大のなかでの捕虜の大量殺害、その事実をもっても「虐殺有無」は議論の対象にすらならない。陸軍OBの親睦団体である偕行社の調査結果「南京戦史」においても、3万人程度の規模が推定されており、秦郁彦の著書同様の結論となっているという[*]。
だから本書の切り口自体は、何ら新たらしいものはなく、また新事実を提供するものではないことは自明である。イデオロギー的な対立の対象ですらない、のだ。それでも出版行為に意味を与える昨今の風潮こそ、戦後の日本に新たな汚辱を与えるものでないのか。
[*]元陸軍参謀・瀬島龍三が会長を務めた同台経済懇話会が出版した「近代日本戦争史 第3編」のなかの記述。陸士出身の著者も虐殺の事実は否定できない認識。