連休中のゆったりとした時間を本と音楽、そして(残念なことに)仕事に使っている。久しぶりに書架を眺めていたら古い山岳書の滋味、のようなものを味わってみたくなった。
今のようなモノが溢れる「豊かな時代」とは異なる、厳しい時代の日本にあっても、山を視る眼差しの豊かなこと。足元の厳しい生活から、距離を置いたところに変わらぬ山はある。
戦前の有産階級であり北大農学部を卒業した坂本直行は、日高の原野を開墾し29年に渡って労苦のもとに。その動機が山であり、また原野から見た山であるという。酔狂といえば酔狂な人生だが、絵で成功し、その後札幌にアトリエを構えている。
wikiによると坂本龍馬の遠縁。
この時代、上田哲農や加藤泰三らの本と共通する、暖かい筆致が愉しい。
(坂本直行は1906年生まれでボクの祖父の世代、上田哲農、加藤泰三はもう少し下の世代。加藤泰三が一番若い(と思う)のだが、戦争で南方から還らなかった。)
まだ戦後の貧しい時代であったが、しっかりとした装丁の美しい画文集。本の中では時間が実にゆっくり流れていく。書庫にしている薄暗い部屋の中で、浸る。
北海道の山には一回だけ登ったことがある。修学旅行で行った折の樽前山。噴火湾を見下ろした。これから行くことがあるのだろうか。
坂本直行の初登山は蝦夷富士こと羊蹄山。大正期の登山ののんびりした様子が伝わる。祖父が鶴来から歩き通して白山に登ったことを話したことをばんやりと思い出していた。そうやって時間がゆっくり流れていく。
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