K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

大木毅: 独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (2019)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

 

一気に読み通した。大きなテーマを新書で扱っている以上、俯瞰的、入門的な内容とならざる得ないが、この戦争についての視点を与えるという意味では見事に成功している。あまりに面白く1日で読み通してしまった本、は久しぶりである。

何よりも、ヒトラー(ナチズム)、ドイツ国防軍、ドイツ国民の(ある種の)共犯関係を覆い隠すために作られた戦後の言説を否定する、そのような近年(冷戦終結後)の研究を反映している。東方地域からの収奪によるドイツ国民の生活水準の維持。開戦の動機の一つも、ドイツに好況を与えた軍需投資による資源の枯渇を回復するための収奪。

そのような経済背景に世界観戦争(絶滅戦争)のイデオロギーが加わる凄惨さ。そのような独ソ戦の実相を畳みかけていく。ヒトラーの鏡のように、スターリンの姿も映し出されていく。

参考文献も記載されているが、日本語で読めるものは少ない。この本が幹ならば、個別事象を描く枝葉のような続刊を望む。