K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Hank Jones/The Great Jazz Trio: At The Village Vanguard (1976) 1970年代の日本制作盤の素晴らしさ-East Wind

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Hank Jones/The Great Jazz Trio: At The Village Vanguard(1976, East Wind)
A1. Moose The Mooch (Charlie Parker) 6:06
A2. Naima (John Coltrane) 11:41
B1. Favors (Claus Ogerman) 9:35
B2. 12+12 (Ron Carter) 9:27
Hank Jones(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)
Co-producer, Engineer [Recording] : David Baker
Engineer [Assistant Recording] : John Kilgore
Engineer [Remixing] : Yoshihiro Suzuki
Executive-Producer :Toshinari Koinuma
Co-producer: Hank Jones
Producer : Kiyoshi Itoh, Yasohachi Itoh
Recorded live February 19th & 20th 1977 at The Village Vanguard, NYC

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1990年代の日本制作モノを聴いて、何ともなあ、という残念感に襲われた。素晴らしいメンバー集めても、もう歴史の彼方に埋没だよなあ、と思う。素晴らしき1970年代と何が違うのだろうな、と思う。

1970年代から1980年代にかけて、(多分)音楽業界の資金力で、キャッシュフローの端っこであるジャズにも余剰金が廻ったのだと思う。そんなバブルも重要だな、って思う。毎月のように様々な日本制作盤が出て、少なからず存在感を誇示していると思う。トリオ/Nadja, 日本コロンビア/Denon/Better Days, RVC/Baystate, 日本フィリップス/East Wind, 日本ビクター/Flying disc, 東芝/Express, CBSソニーはそのままで。書き出すだけで、1980年頃の楽しい賑やかさを想い出す。

ジャズを聴きはじめて早い時期に入手したアルバムがGreat Jazz Trio。1500円の廉価盤だったのだけど、厚手の紙に製版された美しい芝目のジャケット、その質感の素晴らしさ、手触りは40年以上経っても忘れない。素晴らしい盤はそんな感触から記憶が鮮明だ。

これを生み出した鯉沼ミュージック(だったか)の周辺の人々の企画力は凄い(後年のライヴ・アンダー・ザ・スカイではオーネット・コールマンやWSQを聴かせてもらったしね)。ハンク・ジョーンズを表舞台に引っ張り出し、そのピアノの魅力を知らしめた、ことが。

1950年代のサヴォイのアルバムが中心で、その後は歌伴中心で全く目立っていないハンク・ジョーンズと、マイルス・バンドだった2人を組み合わせる発想。アコウスティック・ジャズが再脚光を浴びる契機となったハービー・ハンコックのニューポートフェスティバルが1976年6月。そのひと月前にこのアルバムのメンバーに渡辺貞夫で収録している(Sadao Watanabe With The Great Jazz Trio – I'm Old Fashioned)。これがはじまり。当時のクロスオーバー一色の中で、こんなことを企画。流行りに合わせたものではない訳だ。

ロン・カーターの下品な低音の唸りが時々気になるが、それ以外は素晴らしい。表舞台に「蘇った」ハンク・ジョーンズのピアノが見せるピアノの表情の変化が細かく、実に聴かせる。冒頭、トニー・ウィリアムスのキレの良い打ち込みから、抑え気味のトーンでピアノが入る。そのあと、二人に早いビートを打たせる中での余裕を見せるソロには驚いてしまう。そのビート感の差異でピアノがふわっと浮き上がるような瞬間が再々。組み合わせの妙がたっぷり。ナイーマで見せるピアノの煌めき、B面のオーガマンの曲での美しさ、聴くたびに耳を奪われる。トニー・ウィリアムスの絶妙のサポートとともに。フリー/ジャズ・ロック経由でクロスオーヴァーしていたトニー・ウィリアムスとハンク・ジョーンズなんて誰が考えつく?ロン・カーターの残念感が少しだけ残るのだけど。

ヴィレッジ・ヴァンガードって、鰻の寝床みたいな小さな箱で、そんなに録音環境が良いとも思えないのだけど、デヴィッド・ベイカーの録音は実に良い。ドラムのダイナミックレンジを収めつつ、ピアノを浮かび上がらせている。このアルバムの素晴らしさの何割かは、この録音から由来する。絶妙のバランスで、実態のヴィレッジ・ヴァンガードよりも、素晴らしい臨場感をスピーカーの前で与えてくれる。

書きながらEast windの素晴らしいアルバムを想い出してきた。素晴らしき1970年代なのだ。


The Great Jazz Trio - Favors (1977)

アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード