K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Tyshawn Sorey: Koan (2009) 音が静寂を生み出すような感覚は

Tyshawn Sorey: Koan (2009, 482 Music)
A1. Awakening(Tyshawn Sorey) 12:45
A2. Only One Sky(Tyshawn Sorey,Todd Neufeld) 2:31
A3. First Meeting 2(improvisation) 4:51
B1. Correct Truth(Tyshawn Sorey) 7:59
B2. Two Guitars(Tyshawn Sorey) 9:34
C1. Nocturnal(Tyshawn Sorey) 15:16
C2. First Meeting 5(improvisation) 5:40
D1. First Meeting 3(improvisation)  5:55
D2. Embed(Tyshawn Sorey) 12:56
Tyshawn Sorey(ds), Todd Neufeld (g), Thomas Morgan (b, g)
Recorded by Richard Lamb (except first meeting tracks)
Recorded by Michael Brorby (for first meeting tracks)
Mixed by, Mastered by Mike Marciano
Producer:Tyshawn Sorey
Executive-Producer: Michael Lintner
Recorded May 8, 2009 at Systems Two Studio in Brooklyn, NY(except first meeting tracks)
Recorded Jan. 26, 2009 at Acoustic Recording in Brooklyn, NY (for first meeting tracks)
Remastered for vinyl at Systems Two, Brooklyn, April 2015
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流れるようにレコードを手に入れ聴いていると、いつしかそれ自体が目的化し、なんとなく音楽を聴くことが詰まらなくなる。買い物に眼が行き過ぎると、そんな羽目に陥る。

それじゃあ生活に潤いもあったものじゃない、から、少しレコードを聴き直そう、と思った。真っ先に手にしてみたのは、タイショーン・ソーリーのKoan。Koanというのは、禅の公案である。南宋の無門慧開(1183年-1260年)の公案を引用している。
このレコード盤は2009年のCDに、First meetingと名付けられた3つのimprovisationが追加されたもの。

ソーリーにより作曲された曲とimprovisationによる曲の不連続は極めて小さい。アルバム全体の音空間は均一であり、3人の奏者の間には無音が広がり、その中に離散的な音が流れていく。少ない音の一つ一つが美音であり、その訥々とした流れが、公案のような、音の深部への問いかけ、全てが答えであり答えでない、問答を聴いているようだ。無限の円環のなかにいる。

タイショーン・ソーリー、トッド・ニューフェルド、トーマス・モーガン、どの奏者の音も研ぎ澄まされており、魅了される。音が静寂を生み出すような感覚はECMに近しいが、音の温度を下げるような造り込みはされてなく、アコウスティックな味わいはより強い。過度の残響は付加されていないので、より強い残響が意識の中に染み渡るような感覚。

改めて、紛れもない名盤を聴いている、そんな確信のなかで2枚目を聴き終えた。


[2016-09-26] 柔らかな音響空間

  NY在住のピアニスト、蓮見令麻さんのtwitterで取り上げられていたので、早速apple musicで聴いてみた。

Agingの問題もあって、なかなか新しい奏者の名前が覚えられない。過去、聴いたことがあるかどうか、覚えていない、多分はじめて聴く。演奏もさることながら、まず、柔らかな音響空間に驚いた。通常、パンチが強く、ひずむ直前のような録音が多い米国のアルバム、とは思えないほど、透明で柔らかい。apple musicのような圧縮音源でもそうなのだから、もとの音源はさぞかし、と思わせる。それでいて、ECMのような残響を重視した録音になっている訳ではない。そこに不思議な独自性を感じさせる。

まず録音に触れるのはオカシイ、かもしれない。だけど、このアルバムの主眼がよく考えられた音響空間であり、それを実現するために、水墨画の如く、淡い音が点在するような印象。音と音の間が無であり、しかし無が存在を主張するが如く、空間ができあがっている。まさにECM的なレトリックなのだけど、ECMとは異なる、楽器そのものの音響を克明に捉えることで実現している、ように感じた。

やはり、トーマス・モーガンの存在は大きい。一音・一音の打ち込みが、そのような音響空間を見えない梁で支えるような存在。そしてギタートリオでの、そのような空間空間を設計・施工したタイショーン・ソーリーの力量は確かに素晴らしい、と思った。少し聴くと「浮遊系ね」、って聴こえるのだけど、決して多めの音で浮遊させている訳ではなくて、肉を削ぎ落とした過小な音で、慎重に空間の座標軸を打ち込むような作業をやっているのだ。だから、とても遅い。が、一音一音の重さが、音から沸き上がる空間を想起させ、ある種の快感を喚起する。

蓮見令麻さんのアルバムUtazataの音響空間にも近いものを感じたが、調べると違う録音技師だった。 ニューヨークでの方向なのか、どうかは分からない、ボクには勿論。それくらい好奇心が沸いた。ああ原盤を聴きたい。

追記:結局、アナログ盤を注文。やれやれ。

Koan

Koan

 

 

参考記事(これから読まなきゃ):