ブラジルのメマーリとフランスの打楽器奏者モランのデュオ。といっても、多重録音箇所もあるので、デュオの親密さ、の裏裏返しである息苦しさ、は案外ない。CDというフォーマットのしんどさ、は1時間にわたる音の連鎖そのもの(レコード世代には)。このアルバムは、様々な音を繰り出していて、全く飽きない。凄い。
メルドー+ジュリアナのMehlianaを意識してか(いや、強く意識したのだろうな)、Mehmorinと名付けられたInprovisoは即興ということなのだろうが、音の振幅の範囲はメルドーよりも広く感じる。それはMehlianaが狙っている音の焦点がジュリアナのビートに絞られていることに対し、Mehmorinでは奔放に音を繰り出すメマーリの振幅に、モランが美しい調和を与えている構図だから。Mehlianaではジュリアナが繰り出すビートにメルドーが素晴らしい伴奏をしているように見える。Mehmorinは逆。
(ジュリアナを聴き込んだ後にMehlianaを聴くととても楽しい! それはまた別途)
メマーリが凄まじいと思うのは、クラシック、現代音楽そしてMPBをはじめとするブラジル音楽、それらの音楽の快楽を止揚し、ジャンルを寄せ付けない音世界を作り出していること。数年前に一度、メマーリを随分と聴いたけど、なんとなく似たような音のアルバムで飽きてしまった(アギューレ一派に通じる)のだけど、今年のアルバムでの音世界の広さ、には驚嘆してしまう。しかも、ボクのようなジャズ好きにとっても、ジャズ的愉悦の塊、なのだから。
タワー・レコードで試聴したときに1曲目のピアノの旋律にシンバルが添えられたときの美しさ、といったら。即、買い、だった。
IMPROVISOとなっていない曲は多重録音で、箸休めみたいな楽しい曲。表題曲は70年代味の南米フュージョン。昔のジョージデュークを聴くような感じ。11は滝廉太郎の荒城の月、だけど、和曲カヴァーの嫌みはなくて、あっさり聴ける。聴き物は最後のMemories of tomorrow。キース・ジャレットのケルン・コンサートIIc(第4面、最終曲)に題名をつけたもの。知らなかったが、随分前からそのような名前になっていた、らしい(1991年にボストンでの学会に参加したとき、アトラクションのジャズ演奏で、カヴァーしているバンドがいて、驚いた記憶がある)。かなりキースの「内面」に迫ったような解釈で、電気ピアノで煮詰めていく音はジャズ・ロック的で、キースがかつて隠しもしなかった身体的なビートが、あの旋律の裏にある、ということを改めて認識させてくれた。
面白かったし、楽しかった。素晴らしいアルバム。
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Andre Mehmari – François Morin: Arapora (2014, Inpartmaint)
1. IMPROVISO Mehmorin 1 (André Mehmari / François Morin)
2. IMPROVISO Mehmorin 2 (André Mehmari / François Morin)
3. CORALE (André Mehmari)
4. IMPROVISO Mehmorin 3 (André Mehmari / François Morin)
5. IMPROVISO Mehmorin 4 (André Mehmari / François Morin)
6. IMPROVISO Mehmorin 5 (André Mehmari / François Morin)
7. ARAPORÃ (André Mehmari)
8. IMPROVISO Mehmorin 6 (André Mehmari / François Morin)
9. AMOR EM PAZ (Antonio Carlos Jobim)
10. IMPROVISO Mehmorin 7 (André Mehmari / François Morin)
11. LUAR SOBRE AS RUÍNAS DO VELHO CASTELO (Rentaro Taki)
12. IMPROVISO Mehmorin 8 (André Mehmari / François Morin)
13. MEMORIES OF TOMORROW (Keith Jarrett)
André Mehmari (p, vo, b, g), François Morin(ds)