K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Jazz会#16:死刑台のエレベータが封切られた50年代をもう一度


フランス映画「死刑台のエレベータ」が封切られた1950年代を巡ってみたくなった。あの戦争が終わってまだ10年位しか経っていない時代。国力を過大評価し、戦い、多くを失った日本。国力を過小評価し、戦わず、多くを得ることは無かったけれど、失うものがなかったフランス。見事な軌跡の違いを描いている。アメリカとの比較で云えば、日本もフランスもとても貧しい時代であったのだろうけど。

今回はフランス映画「死刑台のエレベータ」を皮切りに、50年代ジャズの味をゆっくりと味わう宵をどうぞ。


0.プロローグ

Herbie Hancock: The Imagine Project(2010, Sony music)
ハービー・ハンコックの今、を聴いてみたくて。ある種の普遍性の獲得とジャズ・ピアニストとしての音が微妙に調和している。評判の一枚。

 
1.映画:死刑台のエレベーター Ascenseur pour l'echafaud(フランス,92分, 1957)

・監督: ルイ・マル、原作: ノエル・カレフ『Ascenseur pour l'echafaud』
・脚本: ロジェ・ニミエ/ルイ・マル
・出演:ジャンヌ・モロー (フロランス・カララ)、モーリス・ロネ (ジュリアン・タベルニエ)、リノ・ヴァンチュラ (シャリエール警部)、ジョルジュ・プージュリー (ルイ)、ヨリ・ヴェルタン (ベロニク)
・音楽
Miles Davis (tp), Barney Wilen(ts), Rene Urtreger(p), Pierre Michelot(b), Kenny Clarke(ds)

映像をみながらアドリブで音出しをした、という話は本当だろうか?昔、その逸話を読んで随分感心した記憶があるけど、フランス人と仕事をしてから、そんなに気持ちが合うのかなあ、という軽い疑惑が生じた。とにかく自己中心的だからねえ、良くも悪くも。


2.LP盤で聴く死刑台のエレベーター

Miles Davis: Ascenseur pour l'echafaud(1957, Philips)


Miles Davis (tp), Barney Wilen(ts), Rene Urtreger(p), Pierre Michelot(b), Kenny Clarke(ds)
これをきいていつも思うのは、ジャズ版のカラオケ。エコーもたっぷり入って、何となく熱のないような演奏で。BGMに最適。だから映画音楽かあ。


3.その頃のマイルスをもう少し

(1)Miles Davis: Cookin' with Miles Davis (1956, Prestige)


Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)
とっぱなのマイルスのミュート・プレイに痺れたのは30年前。演奏は55年前。今は昔。改めて聴いてみると、簡素なガーランドのピアノのスウィング感や太いチェンバースのリズム刻みが心地良い。
(2)Miles Davis: Milestones (1958, Columbia)


Miles Davis(tp), John Coltrane(ts), Julian Cannonball Adderley (as), Red garland(p),Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)
このLPは明らかにB面のほうが楽しい。だからCDでしか聴いていないヒトには、ボクの感覚はわからないだろうな。いそいそと知った顔をしてB面からかけることって、密やかな自己満足があるのですよ。B面の2曲めは何とピアノ・トリオだけなのだけど、この弾けたガーランドはとても好きだ。


4.50年代のジャズ(マイルスを取り巻く奏者たち)

(1)John Coltrane: Blue Train(1957,Blue Note)


Lee Morgan (tp) Curtis Fuller (tb) John Coltrane (ts) Kenny Drew (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)
50年代ジャズの定番中の定番。いわゆるブルー・ノートの音を楽しんでください。少しヘソの向きを真っ直ぐにして、折角来てくれた方々に「世間の名盤」を聴いてもらわないと。不思議なほど、マイルスから離れたコルトレーンの伸び伸びしていること。
(2)Julian Cannonball Adderley: Cannonball Adderley Quintet in Chicago(1959, Mercury)


Julian Cannonball Adderley(as), John Coltrane(ts), Wynton Kelly(p),  Paul Chambers (b), Jimmy Cobb(ds)
これは1959年当時のマイルス・デイビス・セプテットのマイルス抜き録音。楽旅中での録音だそうで。マイルスの妖気みたいなものが抜けると、なんか間抜け(とまでは云わないけど)な感じで。
(3)Red Garland: Groovy(1957, Prestige)


Red Garland(p), Paul Chambers(bass), Art Taylor(ds)
50年代中盤のマイルスを支えたピアニスト。元ボクサーという経歴が信じられないくらい、優しくコロコロしたピアノ。音数が少なくて、その少ない音が弾けるスイング感がとても楽しい。
(4) Paul Chambers: Bass on Top(1957, Blue Note)


Kenny Burrell (g), Hank Jones (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)
50年代ジャズはコノヒトがいないと成り立たないのだけど,60年代はコノヒトがいなくても成り立っているという、寂しい事実はあるのだけど。ジャズという、夜に咲く花の命は短い。


5.もう少しいろいろな音を聴きながら今日はお仕舞い

(1)Jimmy Smith: The Sermon!(1958, Blue Note)


Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb),  Lou Donaldson (as), Tina Brooks (ts), Kenny Burrell (g), George Coleman (ts), Art Blakey (ds)
ジャズのオルガンはハモンドB3(だったかな)。ピアノよりもぐっとアーシーな感じになる。
(2)Modern Jazz Quartet: Concord(1955,Prestige)


Milt Jackson (vib), John Lewis (p), Percy Heath (b), Connie Kay (ds)
かつては絶大な人気を誇ったMJQ。抑えたクールな筆致で描かれるジャズは夜半が近づく時間によく合う。
(3)Wes Montgomery: the Incredible Jazz Guitar(1960, Riverside)


Wes Montgomery (g), Tommy Flanagan (p), Percy Heath (b), Albert Heath (ds)
ちょっと60年代にかかっているけど、ジャズの代表的ギタリスト.
(4)Tommy Flanagan: Overseas(1957)


Tommy Flanagan(p), Wilber Little(b), Elvin Jones(ds)
その昔, Elvin Jonesのブラシ・ワークを聴け、って教わりました。聴いてみて! それからジャケットがCだらけでしょ。だから Overseas(海外って意味ですけど,スウェーデン録音なんで)
(5)Victor Feldman: Arrival of Victor Feldman(1958, Contemporary)


Victor Feldman (vib,p),Scott La Faro (b),Stan Levey (ds)
ちょっと黒さに疲れてきたので西方面のレーベルで.フェルドマンは英国出身のピアニスト兼ヴァイブ奏者.その後,一瞬だけマイルス・バンドに加入。あとこのアルバムはビル・エヴァンスとの共演で有名な夭逝したScott La Faroの少ない盤の一枚。


6.エピローグ:マイルスの時代は儚くも帳の向こうに消えていき,

そして多くの共演者もこの世を去った。特に50年代の共演者は。マイルスのほうが長生きしたくらい。生き残っているのはジミー・コブくらいじゃないかな.実は死刑台のエレベータのルネ・ウルトルジェも現役。デザート酒のかわりにどうぞ.
Rene Urtreger: Onirica(2001,Sketch)
Piano solo

 おやすみなさい