正直に云うと、演奏の良し悪しが分からない。そんな指先で軽く紡ぐコトバで上手く表現ができない。
27分24秒の演奏会に座っていた、ような感覚。眼前で行われたピアノ・ソロが13分15秒、そして打楽器とのデュオが14分9秒。CDとかLPレコードといったオトの物理的媒体が作り出す「膜」のようなものが、取り払われた世界。
ボクの狭い部屋のなかで、彼らの呼吸がきこえる。そしてボクの鼓動も。素晴らしい演奏を生で聴く体験に近しい。音と音の隙間に漂う残響の美しさ。音も美しいし、無音もまた美しい。
このLPレコードは、かつて企画モノで流行った「ダイレクト・カッティング」。磁気テープを介在させず、マイクロフォンで拾った音を直接カッティング・マシンに入れる。だから介在する装置や媒体での劣化がない、との触れ込みだった。だから逆にじっくりプロデュースされたアルバムと比較し、音の良さと反対に、演奏そのものが話題となることが少なかったような記憶がある。トータルのアルバムとしての質を上げるような編集ができないからね。
このアルバムはそもそもインプロヴィゼーションの世界。一期一会の音の出合いを最大化できるような奏者達が、僅か30分に満たない濃密な音を残していった。それから35年経った今も、その出合いに立ち会ったような錯覚を覚える空間が陽炎のように浮かんでいる。亡き富樫は生きている、と思った。
-----------------------------------------------------------------
Richard Beirach・富樫雅彦: KAHUNA (1978, Trio)
A1. Kahuna
B1. Essence
Richard Beirach(p), 富樫雅彦(perc)