寒かった東北の出張から、暖かい金沢に帰って、ほっとしている。長旅で疲れているのだけど、帰途、ふっと聴いたアンドリュウ・シリルの新譜の素晴らしさ、に気持ちが一気に開いた。帰宅後、ワインを呑みながら、しっかり聴いている。
何が素晴らしいか、というと、1937年生まれのシリルが今の音の中にしっかり溶け込み、先端へと向かう鋭いvectorの一翼になっている、という驚き。先般聴いたデジョネットの新譜も素晴らしかったのだけど、それ以上に、今、ニューヨークから流れ出る音の先端と重畳する新しさ、のようなものが際立っている。クリス・デイヴィス、タイショーン・ソーリー、ベン・モンダーらのアルバムと共通する音場が、ECMで強調されたような趣。ボクが嬉しいのは、クリス・デイヴィスの新譜でもそうだったが、ビル・フリーゼルの音にある種の力が復活したこと。近年の芯のないような浮遊はいささか残念だったのだけど、そんな印象が払拭されたような感じ。
丁度、1980年頃にデジョネットのSpecial Editionを聴いて感じたような、時代と共に突き抜けた感じ、があって、どのトラックも面白い。個性が強く、遠心力が働いている個々の奏者の音に様々なビート、パルスを与えまとめていくシリルのドラム。決してヴァイタルな音ではなく、ECMらしい温度の低いものであるが、観念的なものでなく、色彩豊かであり、肉体の躍動を感じさせる。そのあたりの妙、を絶え間なく楽しませてくれる。聴いていて、すこぶる気持ちよい。
ECMの残響過多の音場に疑問を感じる昨今なのだけど、これは音楽的な必然性を感じさせるもので違和感はさほど感じなかった。Free系の奏者をECMという案外堅い枠のなかに嵌め込むときの小さな火花、をみたような気がした。そして、シリルが「まさに今の音を叩いている」ことに深い感銘を受けた。
参考記事
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(ECM2430) Andrew Cyrille: The Declaration Of Musical Independence (2014)
1. Coltrane Time (John Coltrane) 4:58
2. Kaddish (Bill Frisell) 5:10
3. Sanctuary (Cyrille, Street, Frisell, Teitelbaum) 4:16
4. Say (Ben Street) 5:00
5. Dazzling (Perchordially Yours) (Cyrille, Street, Frisell, Teitelbaum) 9:52
6. Herky Jerky (Richard Teitelbaum) 3:25
7. Begin (Bill Frisell) 3:10
8. Manfred (Cyrille, Street, Frisell, Teitelbaum) 4:03
9. Song For Andrew No. 1 (Bill Frisell) 5:38
Andrew Cyrille (ds, perc), Bill Frisell(g), Richard Teitelbaum(p, synth), Ben Street (b)
Design: Sascha Kleis
Photograph: Jesse Chun
Engineer : Rick Kwan
Producer: Sun Chung
Released: 23 Sep 2016
Recorded July 2014 at Brooklyn Recording