K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

姉崎等, 片山 龍峯:クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 (ちくま文庫)

クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)
 

今年の夏、手取川支流で熊と遭遇した。渓流釣りの最中で、午前8時頃。竿を垂れている場所から100m弱。ドンという音とともに、藪から河床に降りてくる熊が見えた。緊張して、立ち尽くした。鼓動が高まる。クマを見ていると、向こうもコチらを見た。プイと正面に向き直し、対岸に渡り藪に消えていった。その間、一分もなかった。

後から恐ろしさ、が沸いてきた。それから、熊撃退スプレーを購入したり、本を読んだりした。秋田で人を喰うツキノワグマが出現したことから、いろいろな「熊本」が出ているが、最も腑に落ちたのは、この本。2002年に出版された本であり、著者、編者ともに逝去されている。

狩人である姉崎氏はアイヌの母親と和人の父親の子。早くに父親を亡くし、生活のなかで狩猟を糧とした人。惹句の「アイヌ民族最後の狩人 」とは裏腹にご自身の苦労の中で、生活のため狩猟を体得した方で、アイヌの伝統の中で技能を伝承された、ような話は出てこない。

この本の説得力は、姉崎氏の合理的かつ実証的な思考にある。山で獲物を追うために、山を知る、動物の習性を知る、そのことを実直に繰り返している。その経験をもとにクマの習性を語り、そしてクマとの遭遇の危険から避ける方法を説く。単なる事例集、事例から説くノウハウと異なる厚みを与えている。

・クマは人間を恐れている。だから背中を見せて、逃げてはいけない。眼をそらさない。

・人間に対する恐れがあるから、姉崎氏は(クマの時間である)夜間に襲われたことはない。人間に襲われる恐怖から昂奮し、反撃するスタンスで襲ってくる。

・人間に対する恐れがあるから、思わぬ事で反撃されると逃げる。空のペットボトルを握ったときの音、苦手なヘビに似た長い物を振る、など。

何よりも一冊を読み通すと、クマにも個性があり、個性による枝葉の部分と、本性による幹の部分が鮮やかに浮かび上がるような印象が得がたい。ほんの少しだけ、「恐怖」ではなく「理解」でクマを知ることが出来た、ような気がする。それが、著者が願っていたこと、だと思う。