K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Vladimir Horowitz: Horowitz in Moscow (1986) 或るジャズファンのクラシック入口


Vladimir Horowitz: Horowitz in Moscow (1986, DG)

1. Scarlatti: Sonata In E Major, K.380 (L.23): Andante Comodo
http://www.youtube.com/watch?v=JaHMdDjNnZ8
2. Mozart: Piano Sonata In C Major, K.330 (300 h): Allegro Moderato
http://www.youtube.com/watch?v=dd7Q7vhNB-I
3. Mozart: Piano Sonata In C Major, K.330 (300 h): Andante Cantabile
http://www.youtube.com/watch?v=oQzp_-N6IUs&feature=related
4.Mozart:  Piano Sonata In C Major, K.330 (300 h): Allegretto
http://www.youtube.com/watch?v=gv2oM5DE1Mk
5. Rachmaninov: Prelude In G Major, Op.32, No.5: Moderato
http://www.youtube.com/watch?v=qtEboPdJ6fw
6. Rachmaninov:Prelude In G Sharp Minor, Op.32, No.12: Allegro
http://www.youtube.com/watch?v=_Z6qOZeXg0A
7. Scriabin: Etude In C Sharp Minor, Op.2, No.1: Andante
http://www.youtube.com/watch?v=Jt1TOxdVzDA
8.  Scriabin: Etude In D Sharp Minor, Op.8, No.12: Patetico
http://www.youtube.com/watch?v=UlMI89JucdA
9. Liszt: Shubert: Soirees De Vienne: Valse-Caprice No.6: Allegro Con Spirito
http://www.youtube.com/watch?v=oXAB-eBws38
10. Listz: Sonetto 104 Del Petrarca: Agitato Assai - Adagio
http://www.youtube.com/watch?v=zdaoMyMTpuA
11. Chopin: Mazurka In C Sharp Minor, Op.30, No.4: Allegretto
http://www.youtube.com/watch?v=VRaYQESxsUw
12. Chopin: Mazurka In F Minor, Op.7, No.3: Allegretto
http://www.youtube.com/watch?v=ea9JhI4FLcU
13. Schumann: Kinderszenen: Traumerei
http://www.youtube.com/watch?v=qq7ncjhSqtk&playnext=1&list=PLCB43D1A6B0EBA0C2&index=26
14. Moszkowski: Etincelles, Morceau Caracteristique Op.36, No. 6: Allegro Scherzando
http://www.youtube.com/watch?v=X27N_svVPok
15. Rachmaninov: Polka de W. R.: Allegretto
http://www.youtube.com/watch?v=MtxynUhUqFs

このモスクワライヴはDVDでも発売されているので,youtubeに殆どがアップされている。

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ジャズを30年ばかり聴いている。相変わらず好きなのだけど、残り時間を考えると、もう少しいろいろな音を聴いてみてもいいのかな、と云う感覚が年々強くなっている。数年前に新書のガイドブックをみて、クラシックのアルバムを数枚購入してみたが、見事挫折。面白くなくはなかったのだけど、脳内快感指数が低くて、継続する推進力がなかった。

昨年の中頃に機会があって再度。ジャズのはじめと同じピアノ曲を聴きはじめたのが良かったことと、クラシックに対するある種の固定観念が壊れたことで弾みがついた。その弾みになった演奏が、ホロヴィッツのアンコール集に入っている「星条旗よ永遠なれ」:

http://www.youtube.com/watch?v=TxO9k53IsMU&feature=related

クラシックのガイドブックや、クラシックファンのブログをみているとホロヴィッツを取り上げるのは気恥ずかしい、という記述が多くて驚く。なんでだろう。ジャズファンは「マイルス好きです」とか「コルトレーン好きです」といった「大手ブランド嗜好」に、あまり気恥ずかしさはないと思うけど。ボクはこの「星条旗よ永遠なれ」がいいとか、悪いとか、じゃなくて、お行儀のいいクラシック、ゲージュツ的な音楽といった固定観念が壊された。ちょっと気狂いがはいったピアノ芸人の姿がみえたから。それも半端じゃない....だからジャズを聴くときと同じ嗜好(思考?)回路で、気持ちを逆撫でにされたり、押し倒されたり、冷気をはらまされたり、といったことを愉しめばよいことが分かった。そんなジャズと同じ愉悦追求マインドで聴きはじめて、弾みがつくこと、つくこと。

ホロヴィッツの入口はそんなことだったのだけど、最初に買ったCDはスクリャービン集。ボクの好きな曲は20世紀に入ってからのものが多く、ジャズも含めて自分の皮膚感覚にぴたっとくる。だからプロコフィエフとかドビュッシーの曲も。近代の作曲家の曲をホロヴィッツで聴きはじめた。あわせて、他の演奏者のアルバムも。

そんなクラシックの聴きはじめだったのだけど、ホロヴィッツの演奏をホロヴィッツの演奏として受け止めるタイミングが唐突にやってきた。夏の早朝、まだ木星が南の空にひかる頃に、独り白山に向けてクルマを走らせていたとき。登山前の心地よい昂揚感のなか。車中、何気なくこのHorowitz in Moscow(1986)をBGM代わりにかけた。それまでは主に隠遁前、壮年期のアルバムを聴いていたのだけど。驚いたことに、今まで耳が受付なかったスカルラッティとかモーツァルトの曲が唐突にそして気持よく滑りこんできた。いきなり耳に穴が開くような体験。隠遁期の後、晩年の演奏は、研ぎ澄ました刃のような演奏ではなくなっているのだけど、その代わりに丁度良く磨かれた音の流れが気持よく神経にあたっていく。特にMoscowの聴衆との交感が伝わるような、それでいて故郷に帰ったような安らいだ音が素晴らしく感じた。

この気持よさを言葉にできると嬉しいのだけど、そんな語彙や話法をもっていないことが残念。でも、多くのジャズファンにも、この感じを共有して欲しいなあと思う、あまり成長のないジャズ30年選手の気持ちなのだ。