K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Hard bop and beyond (ジャズ会#24)


 音楽を聴くことって、多分に独り遊びが好きな性分に合っているのだけど、同時に他人との関係性が横糸のように入ってくることが面白い。知らない音を教えてくれた友人達とともに聴いた空間が意識の底に沈殿している。だから半年近くジャズ会が中断している、というのが、そんな記憶が薄まっていくような気分になってきたので、また再びやりたくなった。
 この半年の間に起こったことは、随分とジャズ以外の黒人音楽やポップスに近い音を聴くようになったこと、LPレコードへのこだわりが強まったこと。なんか上手く云えないのだけど、音の聴こえ方が変わってきた、という実感が強まってきた。だから、Hard bop and beyondということで、黒人ジャズの直球を投げてみたいと思った。一旦、止めていたことを、またヤルということが正しいのか、とちょいと考えたのだけど、まあ酒を呑むための口実なのだけどね。


A. Prologue
1.US3: Hand on the Torch(1993,Blue Note)
おなじみCantaloop。Herbie Hancockの有名曲をサンプリングしたもの。アナウンスはマンハッタンのジャズクラブBirdlandの司会者Pee Wee Marquette。1950年代のHard bop全盛期のクラブの熱気を象徴させているのだろうね。


B.Hard bop players around Art Blakey
2.Art Blakey:A Night at Birdland(1954,Blue Note)
Art Blakey(ds), Clifford Brown(tp), Lou Donaldson(as), Curley Russell(b), Horace Silver(p)
Funkyの化身のような音盤。アート・ブレイキーホレス・シルバーの叩きだすリズムの気持ち良いこと。まあ疲れているときには聴く気がしないけど。アート・ブレイキーホレス・シルバーは、この後Jazz Messengersというバンドを結成。でも早々に袂を分かって、バンドメンバーはシルバーが、バンド名称はブレイキーが継承したそうな。Art Blakey&Jazz Messengersで1960年代初頭までのHard bopブームを牽引。多くの奏者がここから巣立つ。バンドは1990年代まで続き、何と1960年代後半にはキース・ジャレットも参加している。


3.Horace Silver: Blowin' the Blues Away(1959, Blue note)
Horace Silver(p), Blue Mitchell(tp), Junior Cook(ts), Gene Taylor(b), Louis Hayes(ds)
シルバーのHard bop期の音盤。前の盤と比べてピアノが目立つこと(当たり前か)。ブロウする1曲目からしっとりとしたトリオはなかなかのムード。Funky一本ではなくて、シルバーのリリカルな側面も良く伝わるよね。このレコード、1980年頃の輸入盤で購入。確か反っていて、輸入盤の安物買っちゃいけないなあ、と思ったのだけど、30年経ったら直っている!最近、棚にぎゅうぎゅうだからか?


4.Art Blakey and the Jazz Messengers: Moanin'(1958, Blue Note)
Art Blakey(ds), Lee Morgan(tp), Benny Golson(ts), Bobby Timmons(p), Jymie Merritt(b)
アート・ブレイキーJazz Messengersはメンバーを変えながら存続していたのだけど、これが何番目かはボクは知らない。あまりクロニカルめいたことには興味はない。どのメンバーも粟立つような黒光りしたソロを放つ。最盛期のバンドじゃないかなあ。ちなみにMoanin'って曲は、当時の日本で流行ったらしい。そのエピソードが、「蕎麦屋の出前が口笛で」とは良く書かれていたのだけど、それも如何なものかの表現。金沢の蕎麦屋を見てると、ホントにそう思う。


5.Lee Morgan: Candy(1957, Blue Note)
Lee Morgan(tp), Sonny Clark(p), Doug Watkins(b), Art Taylor(ds)
ブレイキーのアルバムのトランペット奏者。Lee Morganは最後、ヨメに射殺されたんじゃなかったかなあ?そんな奏者って何人かいるよね。太く短く、って感じで吹きまくった感じ。晩年のライヴなんかもいいよね。これは管一本、が魅力のアルバム。


6.Sonny Clark Trio(Time)
Sonny Clark (p),George Duvivier (b)、Max Roach (ds)
Candyを聴いていたら、無性にSonny Clark trioを聴きたくなった。実は2つ同名アルバムがあって、Time盤とBlue Note盤。前者は派手め、後者は地味め(いぶし銀とも云う)。どっちか迷ったけど、今までBlue note盤ばっかりなので、Time盤を。


7.Lee Morgan: Sidewinder(1964, Blue Note)
Lee Morgan(tp), Joe Henderson(ts),Barry Harris (p), Bob Cranshaw(b), Billy Higgins(ds)
もう一枚リー・モーガン。ジャズ・ロックの走り、と云われたけど、今聴くとそんな気がしない。ちょっとした変拍子って感じだよね。ちょっと軽いポップな感覚で気持ちのいい一枚。


8.Barry Harris:Plays tadd dameron(1975, Xanadu)
いぶし銀、といえば、このバリー・ハリス。録音は1975年なのだけど、バップ期の有名なジャズ・ピアニスト&作曲家のタッド・ダメロンの曲を取り上げている。とても洗練された演奏。Hard bop最盛期から20年を経て、純化したような美しい演奏。黒さ、はしっかり維持してね。このピアノ、バリー・ハリスは今でもBopのセンセだそうで、昨年は金沢の隣町(野々市)にやってきて演奏とワークショップをやっていた。相変わらず間抜けで、気がついた時は満席(涙)。


C.Interlude
9.Grant Green: Grantstand(1961, Blue Note)
Grant Green(g), Yusef Lateef(ts,fl), Brother Jack McDuff(org), Al Harewood(ds)
何だか「ほぼBlue Note特集」なんだけど、やっぱり聴いていると落ち着くね。最近、聴きはじめたのがGrant Green。黒っぽさ、に惹かれる。音数が多くない、からこそ表現できるオトもあるし、その隙間にどろっとしたオルガン詰め込むのも楽しい。確か、初めて聴いたのはオルガンのラリー・ヤングとの音盤だったしね。


D.Beyond hard bop by Donald Byrd and Herbie Hancock
10.George Wallington:Live! At Cafe Bohemia(1955, Prestige)
George Wallington(p),Donald Byrd(tp), Jackie McLean(as), Paul Chambers(b), Arthur Taylor(ds)
先日、Donald Byrdが亡くなったのだけど、意識に入ったのは、ほんの最近。聴いてみると、いいよね。本当はThe Jazz Messengersでの吹き込みを探したのだけど持っていなかった。今回、ただ一つの黒人ではないリーダ。シチリア生まれのイタリア人。ジャッキー・マクリーンとの二管が楽しい。


11. Donald Byrd With Herbie Hancock:Takin' Care Of Business(1961,TCB)
Donald Byrd(tp), Pepper Adams(bs), Herbie Hancock(p),Laymon Jackson(b), Jimmy Cobb(ds)
Blue Noteでのドナルド・バードハービー・ハンコックの共演盤を入手しようと思ったけど、まだ。これは亡父のレコードのなかにあった一枚。期待しないで聴いたのだけど、ハンコックだけでなくバードも端正な響きを出していて、Hard bopの響きがスムーズでもあり、また少し新しい感じを上手く出している。


12.Herbie Hancock: Inventions And Dimensions(1963, Blue Note)
Herbie Hancock(p), Paul Chambers(b), Willie Bobo(ds, timbales), Osvaldo "Chihuahau" Martinez (perc)
ピアノ・トリオに打楽器の編成。Hard bopの熱狂は影を潜め、coolというコトバがよく似合う一枚。ジャズの変容を感じて貰えると思う。彼のBlue note吹き込みで数少ないホーン抜きの録音じゃないかな。だから、ピアノをたっぷり聴きたいという気持ちにぴったり。打楽器が入って、強いラテン色かなって思っていたのだけど、そんなことはない。アクセントという言葉がぴったりな役割で、それが格好いい演奏。ハービーらしい音造り。実は長い間この音盤を聴いていなかった、というのは、ドラムの「ボボ」って何だか脳天気なラテン打楽器って感じ(あるいは格闘技系奏者みたいな)がしたから。聴かず嫌い。仕方がないねえ。


13.Herbie Hancock: Speak Like A Child(1968, Blue Note)
Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Mickey Roker(ds)
Thad Jones (flh), Peter Phillips (bass-tb), Jerry Dodgion (alto-fl)
ハービーの進化を聴いて欲しい。ピアノ・トリオをベースにホーンセクションを纏ったような爽やかで美しい一枚。ハービーだってHard bopからはじまっていると思うが、表現の奥行きが素晴らしいと思う。1970年代の音楽の揺籃期だなあと思う。
ひたすらBlue noteなのだけど、この頃になるとレーベルがリバティ傘下に入って、創業者ライオンが抜けるので、次第に「あのBlue note」ではなくなる過程に入る。だから最近のWayne Shorterの新譜の惹句が「40年振りのBlue Note」って、とても違和感がある。独立系のレーベルで無意味だよねえ。その後のBlur noteの価値、とは全く別の議論だとは思うけど。


14.Donald Byrd: Fancy Free (1969, Blue Note)
Donald Byrd(tp), Frank Foster(ts,ss), Julian Priester(tb), Lew Tabackin (#A2, B2), Jerry Dodgion (#A1, B1) (fl), Duke Pearson(el-p), Jimmy Ponder(g), Roland Wilson(b), Joe Chambers (#A2, B2), Leo Morris (#A1, B1) (ds), Nat Bettis, John Robinson(perc)
 いつだったかS君のレコード棚を漁っていたら、ドナルド・バードのアルバムを数枚見つけた。バップ期の演奏しかしらなかった。何となく気にかかっていたこと、もあって、取り出して聴いてみた。Fancy Freeの盤面から広がる音の豊穣さに打ちのめされた。その名の通り、birdならぬbyrdだけど、飛翔していく音の爽快感。ハンコックのspeak like a childが通奏低音のようなアルバムだけど、デューク・ピアソンが弾くFender Rhodesの彩りが楽しい。最近のLP漁りでの一番の収穫じゃないかなあ。実はね、コレと次を聴くための仕掛けなんだ、今回のジャズ会は。


15.Duke Pearson: It could only happen with you(1970, Blue Note)
Duke Pearson(p),Bob Cranshaw(b), Mickey Roker(ds), Flora Pulim (vo),Hermeto Pascoal (fl, g, b),Burt Collins, Joe Shepley (tp), Jerry Dodgion(al-fl), Al Gibbons (al-fl) , Lew Tabackin (ts,fl)
チック・コリアのReturn to Foreverと音が向かう方向は同じ。フローラ・プリムが重なり、音の色彩感が重なる。「あの」エルミート・パスコアールが大半の曲を吹くため、より原色の風が吹き抜ける。艶かしい。デューク・ピアソンのピアノは、良い意味で古く、Boperの薫りを残しながら、黒光りするグルーヴ感を「軽く」添えている。この軽さ、が気持ちよい。ドナルド・バードのFancy Freeが気に入った。そのプロデュース/ピアノがデューク・ピアソンということで、間髪入れず入手。Fancy Free以上の悦び、音を聴くことの、を感じた。曲ごとにジャズとブラジル音楽との距離感が微妙に遷移する。それが、このアルバムを聴かせる大きな力、となっている。ブラジル音楽との融合という意味で、この1枚はReturn to Foreverの2年前に録音された先駆的なものであり、もう一つの主流である、とボクは思う。


E. Epilogue -- Evolution in 1970s by Herbie Hancock
16.Herbie Hancock: Mwandishi(1970, Warner Bros.)
Herbie Hancock(Fender Rhodes), Buster Williams(b), Billy Hart(ds),Eddie Henderson(tp,fl), Bennie Maupin(b-cl, fl), Julian Priester(tb), Ronnie Montrose(g), Leon "Ndugu" Chancler(ds,perc), Jose Areas(perc)
今聴くと、確かにspeak like a childからの着実な進化って感じが伝わる。電化音がジャズからの離脱のように感じたのは遠い昔。浮遊感が気持ちよい。ボクはFender Rhodesフェチなので、堪らない。Blue noteからメジャーWarnerに移ったのだけど、あまり商業的には成功しなかったようだ。何となく分かるけど。当時、ハンコックはアフリカ回帰のような熱があって、バンド・メンバー全員にアフリカ名をつけている。そうMwandishiってハービーのアフリカ名。


17.Herbie Hancock: Thrust(1974, Clumbia)
Herbie Hancock(key), Bennie Maupin(ts,b-cl), Paul Jackson(b), Mike Clark(ds), Bill Summers(pec)
Columbiaに移ってから、ファンク色を強めたHead hunterで当てたハービー。Thrustは黒光りする艶が気持ちの良い一枚。この後のハービーはヴォコーダーなど、暫しテクノロジーに貪欲になり、なんとなくしっくりこない感じがある。この頃がハービーの頂点じゃないかなあ、と思っている。

この頃は酔っぱらって、音楽どころじゃないだろうな。おやすみなさい。

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 今回はプロローグのUS3以外は全てLPレコード。以下のラインナップで。

LPプレーヤー       : Kenwood KP-9010
カートリッジ       : Shure V-15 type III(MM)
プリアンプ          : McIntosh C22
メインアンプ       : McIntosh MC30
スピーカ             : JBL 240TI