K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Fred Hersch: Solo (2014) ピアノという楽器と柔らかく戯れ続ける姿の記録

 ボクはいつも、何かに憑かれたように熱中し、そして、その熱中自体に飽きがきて、冷めていく。その繰り返し。そして思い出したように再び気にかけたりする。その繰り返し、のような気がする。

 ハーシュ聴きも数年前に熱中。随分アルバムを入手した。そして東京まででかけて、日本でのソロ・ライヴを聴いて、大きく満足した。そこで何らかの気持ちのなかでの完結があって、次第に関心の中心から外れていった、ような気がする。

 むしろ、そんな熱中の外にあった奏者のほうを細く長く聴いているかもしれない。

 なんとなく気になったハーシュの新しいソロ。他のインターネット情報を殆ど読まないで、現物の到着を待った。昨日届いた。憑かれて帰った昨夜、じっくり聴いてみたのだけど、コンサート・ホールのなかで、他の聴衆と嘆息、歓喜を繰り返すような体験。素晴らしい。

 ボクは面倒くさがり、なのでライナー・ノートを読まない。だから安価だったらDLでも構わない派(音質は気になるので、wavとかaiff, flacだったら)。だけど、このアルバムはどんなアルバムか気になったので、ハーシュ自身のライナーを読んだ:

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・10番目のソロ・アルバム、で幾つかはライヴ。
・そのうち3つのライヴが"found objects"(見つけモノ、シュルレアリスムやダダのコラージュに使われるような転用品のようなイメージ)  。つまりリリース目的ではなく記録用であった。3つとは、コレ、アムステルダムジョルダン・ホール。
・ これらのアルバムでは"in the zone"に自分はあった。特別な場所で全てが上手く機能している、heart, mind, technique。
・素晴らしいアコウスティックな空間で、素晴らしい楽器を演奏する以上に何もなく、それが全て。スタディオでは得られない、何かがある。

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 東京のライヴのサイン会での短い会話(も含め)から感じる、彼の装飾のない・ありのままの人柄を想うと、そのライナーの文章も率直であり、聴く演奏もそのもの、なのである。彼の演奏の魅力は、同じ高さ、人が立つ地表の上で、人が弾くピアノとしての美しさや暖かさ、を感じさせることに尽きる。天から降る音を掴むために、(あたかも)巫女(あるいはシャーマン)のように苦しむキースとは対極にあると思う、いつも。

 そう、彼の病気のこと、昏睡したことを知り、聴きに行った東京での生に満ちあふれた演奏、そして握手した時の手の温かさ、すべてが音とともに蘇る。そんな時間を過ごした。

 アルバムは自作に交え、ジョビン、スタンダードあるいはジョニ・ミッチェルの曲が取り上げられている。曲によっては、その曲かどうか分からないような徒然な感じではじまり、旋律に焦点を当てたときにはっ、と気づかされる感じ。曲という素材から、彼の云う「アコウスティクな空間」を音で満たすための様々な試行、ピアノという楽器と柔らかく戯れ続ける姿が記録されている。彼とともに時間の感覚が次第に失われていくような、不思議な感覚を覚えた。


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Fred Hersch: Solo (2014, Palmetto)
1. Olha Maria / O Grande Amor(Jobim) 12:37
2. Caravan(Tizol) 7:41
3. Pastorale(for Robert Schumann)(Hersch) 8:48
4. Whirl(for Suzanne Farrell)(Hersch) 7:53
5. The Song is You(Kern) 7:52
6. In Walked Bud(Monk) 7:28
7. Both Sides Now(Mitchell) 8:04
Fred Hersch(p)
Recorded live at Wndham Civic Center Concert Hall at Aug. 14th, 2014.
Engineer: Wayne Hileman(Recording), Mark Wilder (mastering)