K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

白山(2702m)をめぐる一日(市ノ瀬から別山、白山そして禅定道で市ノ瀬へ)星空のもと出発し夕暮れまで


一月前の白山登山では、独りで市ノ瀬入山、別山から白山へ縦走し、別当出合に下山した。登高距離2600mとなる歯応えのある登り。だけど何か満たされないものが残った。何だろうか。そもそもボクは山に何を求めて歩いているのだろうか。わからない。なにか満たされたいが為に、だんだんと足を伸ばしているのだけど、果てはあるのだろうか。なにかを求める気持ちが募っている。

そんな意味もない考えを巡らせながら数週間が過ぎた。休日の好天を知り、降雪前の最後の白山登山に行きたくなった。もうシャトルバスも山小屋も営業終了した静かな白山。独り山と対峙するには素晴らしい一日になりそうな予感。とにかく今年の白山登山に区切りをつけたかった。前回も区切りの積もりだったのにね。

気持ちのうえでは、前回より更に足を延ばす必要があった。しかし日照時間はとても短くなっている。考えた末に、登りは前回と同じルートとした。市ノ瀬から入山し別山、白山への縦走。下山は白山から観光新道を下り、さらに初めての白山禅定道で市ノ瀬まで戻ることにした。前回より下山に下降距離6km、標高差500mが加わり、時間的には厳しいものとなるのだが。下記地図のコースタイム累計15時間(室堂・山頂往復1時間として)。日の出前5:00過ぎに登山を開始し、コースタイムを詰めても、17:30頃の日没ぎりぎりに初めての白山禅定道を通ることになる。そもそも夏山の期間ですら登山者が少ない路なので微かな不安が宿った。でも、白山の南側に伸びる山嶺や尾根を大周回する魅力に夢中になってしまった。とにかく行くぞ、って決めてしまった。

登り:
市ノ瀬=(別山市ノ瀬道)=>御舎利山=>別山=>南龍ヶ馬場=トンビ岩コース=>室堂=>白山(御前峰)
下り:
白山(御前峰)=>室堂=>黒ボコ岩=観光新道=>=白山禅定道=>市ノ瀬


朝3時に目覚ましを鳴らし、3時半過ぎには自宅を出た。寝つけに一杯やっていた近所のバーはさすがに真っ暗。André PrevinのCD「The Freat Pianist of the 20th Century- vol.80 - André Previn」を鳴らしながら南に向かった。丁度CD一枚分の行程。MozartのPiano Concertoから始まって、Poulencのピアノ曲、ShostakovichのPiano Concertoと続く。気分が昂揚するなかで聴く音楽はすっと入り、とても気持ちを捉える。前回は南の空には木星が煌めいていたが、今回はあまり明るい星は見えない。

5時には市ノ瀬に着いた。未だ闇夜。満天の星のもと、煌めくオリオン座に迎えられた。身支度を整えているうちに東の空が微かに明るくなると、ものの10分もたたぬ内に星たちは帳の向こうに帰っていった。5時30分にヘッドランプを点灯し、足元を照らして歩きはじめる。長い一日がはじまった。日没前に帰着できるか、気持ちの中の微かな陰翳になり、低い昂ぶりを感じながら尾根に入っていった。

ボクはチブリ尾根ととても相性が良い。ぶなの中を高度を稼ぐ感触がとても楽しい。水場を過ぎて、森林限界を過ぎようとするあたり、観光新道が通る尾根が視界に入りはじめたとき、強い朝日が差し始めた。尾根中頃の明るい笹原のなかで、ボクのなかの陰翳は姿を消して、朗らかな昂奮で一杯になった。


下山路となる反対側の尾根に朝日が差しはじめた    チブリ尾根にも朝日が


チブリ尾根の避難小屋手前の光景が気持ち良い      笹原も輝きはじめた。


チブリ尾根避難小屋のあたりの尾根中盤の平原はとても気持ちが良い。小屋の横、明るい光のなかで、お茶を呑み、バナナでカロリー補給をし、再び歩き続けた。このあたりから気温が随分低く感じるようになり、ヤッケを着込んで歩いていた。本当にあっけなくチブリ尾根に別れを告げて、別山に着いた。とても気持ちが良い登りだった。標高差1500m、約9kmの距離を3時間40分。その間に会った登山者1名。


チブリ尾根避難小屋は溢れる光のなかだった      別山山頂うえに織り成す雲

別山から南龍ヶ馬場までの尾根歩きは、約400mの下降もあるのだけど、肌寒い風のなかで、底抜けに明るい縦走となった。足元には霜柱が立っていた。明け方には氷点下になっていたのだろう。この縦走路では、2000m地点の川まで下降する手前の峰から仰ぎ見る白山がとても神々しく、いつも手をあわせている。




明るい縦走となったけど、雲が織り成す光景はとても複雑で、いつまでみていても飽きない。雲が切れると、深い蒼い空。南龍ヶ馬場から上のくさはらには赤い実が溢れていて、その鮮やかな対比。誰もいない、出会わない路を独り歩き続ける。そんな中で何を考えていたのか、目覚めた後の夢のように、今となってはおぼろげにも分からない。



白山山頂には昼過ぎに着き、約7時間の登高を終えることができた。ほぼ予定通り。5時間程度で下降できれば、日没前に帰着できる。されど下降時には足を痛めやすく、速度を上げることはできない。そんな簡単な足し算や引き算を巡らせながら下りはじめた。

ゆっくりと下降したのだけど、2時間程度で観光新道から白山禅定道に入ることができた。登山者は皆、そのまま観光新道で別当出合に降りて行ったので、人気が全く途絶えてしまった。

白山禅定道に入ると、雰囲気というよりは大気の匂いから変わってしまった。とても濃い草木の匂いのみならず、時として毛モノの匂いまで漂う感じ。かといって野生的ということでもなく、古くからの信仰の路である味わいも深いものがあった。八百万の神々が宿るような気配が濃厚で、その雰囲気に酔うような心地と、下降時間の経過に焦る気持ちがせめぎ合っていた。困ったものだ。積もる落ち葉を踏みしめて下降を続ける。早くも月がみえはじめ、気持ちが焦る。でも気持ち良い空気に包まれている。



この地の山岳の美点は、ぶなを中心とする広葉樹林が健やかに残っていること。時として、語りかけられるような気配すら感じることがある。今回も、先を急ぎ小走りで進んでいると、呼ばれたような気がした。見上げると、ぶなの木々がざわめいている。風はない。ボクが声をかけると、木々は小さく応えた。ボクも応え返すと、少し大きなざわめきで返してきた。やりとりを何回か繰り返すと、次第にざわめきも大きくなった。ボクは急ぐので手を振って別れた。とても温かい気分で古からの路を下降した。



白山禅定道に別れを告げ、林道に飛び出したのが17:15頃。夕日は尾根の向こうに沈み、足元が暗くなる寸前だった。市ノ瀬まで林道を1kmほど歩く中で、やっと心持ちを鎮めることができたような気がした。もう目の前には「歩くべき路がない」。

12時間の自己との対話。独りで歩いたのだけど、独りでもなかったような暖かな心地で、真っ暗になった市ノ瀬を後にした。結局、山を登ることに果てがあるのか・ないのか、
なにかを求める気持ちが満たされたのか・満たされていないのか、そんなことはどうでもよくなっていた。

6回目の白山連峰。白山5回、別山3回登って、今年のボクの白山登山を終えることができた。来年は小さなテントでももって、更に奥の峰々を彷徨したいと願っている。

それにしても積雪期の山も気になって仕方がないけど、こればかりは独りじゃねえ。と、心千々に乱れる日々を送っております。

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登山記録

 5:20 市ノ瀬
 7:45 チブリ尾根避難小屋
 9:00 別山
 9:15 食事の後、別山
10:45 南龍ヶ馬場
11:45 室堂
       (15分の食事休憩)
12:30 白山
12:45 白山出発
13:05 室堂
13:55 殿ヶ池避難小屋
14:55 観光新道・白山禅定道の分岐
16:05 指尾山
17:15 登山口
17:25
市ノ瀬

歩行距離25km程度