K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Henry Kaiser : Marrying For Money (1986) Improvisationという快楽装置


 Improvised musicというFree jazzの亜種(メタFreeというか)があった。ミシャ・メンゲルベルクとハン・ベニンクのICP、ディレク・ベイリーやエヴァン・パカーのIncus、ペーター・ブレッツマンのFMP、ヘイリー・カイザーのとか。日本だと近藤等則とか、か。

 レコードを聴いていると、何が楽しいかさっぱり分からない、音楽であること自体を止めてしまった世界。そうなのだけど、Free jazzを重苦しくした要素、ある種の精神性とか、カタルシスを得るためのプロトコルめいたものとか、そういったものをキッパリ捨て去って、音でしかない、音ですらないときもある世界、が造られていたのだ。

 いつだったか、ボクの学校で近藤等則とトリスタン・ホイデンガーをみたときに、その世界、を知ってしまった。音すら相対化して、何かを指向する。その思考(嗜好)の基底が快楽である、といった単純な事実。ただ面白がれば、良いのだ。京大西部講堂でみたICPオーケストラをみて、その感を強くした。グローブ・ユニティは見た記憶はあるのだけど、印象は薄い。ちょいとマジメ、だからね。

 つまり快楽をバネに軽々と音楽の枠から飛び跳ねるようなオトの世界。そのような傾向はICP一派とかMetalanguage一派、それに近藤が強かったのではないか。だからヘイリー・カイザーは、なんとなく気になる存在だった。そのカイザーの1986年のアルバムがこれ。当時のFree jazzが再構築過程にあってファンクのリズムを援用したように、カイザーはGolden Palominos(ビル・ラズウェルとアントン・ファイアー)のような白いビートの上でImprovisationという快楽装置、を奏でまくる、気持ちいいアルバム。

 なんで今更ヘンタイなカイザーを思い出したかというと、1990年代以降、マイルストリビュートYo Milesという試みをしていて、黒い情念を消し、快楽要素を強調した「ファンク」をやっていて、これが実に楽しい。Twitterで他愛もない話をしていて、このアルバムを思い出した。

 さて、このアルバム・ジャケットの裏面が面白い。昔の日本映画、それもSFの一場面。マントを被った宇宙人が写っている。

 

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Henry Kaiser : Marrying For Money (Minor Music, 1986)
    A1. Murder One
    A2. The Set-Up
    A3. T-Men
    A4. The Big Clock
    A5. Too Late For Tears
    B1. Red Harvest
    B2. Pigs And Battleships
    B3. Java Jack
    B4. The Honey Trap
    B5. The Hairy Eyeball
Henry Kaiser(g), Hilary Hanes(b), John Hanes (ds), Amos Garrett (g: B5), Fred Marshall (g: A2), Glen Philips (g: A1),  John Abercrombie (g: A5)